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『Brad's Status(2017年)/米/カラー
/101分/監督:Mike White』
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週末に見た映画『Brad's Status』。なんでしょうかね…「ブラッドさんの社会的地位」…というものか。トレイラーを見ると、どうやらベン・スティラーがかっこわるいお父さんを演じている。巷のレビューは高評価・低評価とバラバラにわかれている。Rotten Tomatoは81点。さてどんなものでしょう?
ストーリーは…西海岸に住む普通の中年おやじブラッド(ベン・スティラー)が、才能溢れる息子を有名大学の面接と他の大学の下見に東海岸の街に連れて行くというもの。ところで主人公ブラッドの学生時代の友人達の中には、桁外れに成功した者が数名いる。そんな友人達に比べるとブラッドは冴えない…どうやらこの主人公はそんな昔の友人達をうらやんで日々悶々としているらしい(笑)。さてブラッドさん47歳はmid life crisis/中年の危機を乗り越えられるのか?
まず最初に書いておきましょう。この映画は
コメディではありません。たぶん。
ベン・スティラーが出ているので、日本ではコメディ枠で宣伝されるのではないかと思うけれど、一般的なコメディとして期待すると期待はずれだと思います。決してげらげら笑うための映画ではない。中年にとっては大変リアルなあるある映画だと思う。
またこの映画は見る人の年齢や経験によって評価が変わると思います。
人生の経験を積んだ
年寄りにはコメディとして見ることも可能。私には実際かなりおかしい映画だった。
そしてちょっと恥ずかしくて苦しくて哀しい。
しかしこれから人生を始める
若い人達には全く面白くない映画だろうと思います。
映画配給会社の宣伝に惑わされるべからず。
この映画は45歳以上向きの「人生について少し考えさせられる映画」です。そういう意味ではとても面白かった。いろいろと考えさせられて、晩ご飯の食卓で会話がはずむはずむ…そういう映画です。
★ネタバレ注意
主人公のブラッドさんは大変真面目な人。不器用だけど真面目。おそらく若い頃から大変な頑張りやさんで、世の中にも自分にも自分の人生にも真摯に向き合ってきた人。
自ら非営利組織の会社を立ち上げ、世の中をよりよく変えようと努力してきた。明るい奥さんは役所づとめ。子供は優秀ないい子。家族3人とも十分に豊かで幸せで、決して文句を言いたくなるような生活はしていないはずなんですよ。
それなのにブラッドさんは文句ばかり言ってる。毎日不満で不安で「俺はこんなものかなのかよ」と悶々としている。
なぜなのか?
なぜなら彼の学生時代の4人の親友が桁外れに成功してしまったからなんですよね。クラスで仲良しだった友人達が、
み~んな桁外れの大富豪/有名人になっちゃった…嗚呼。
とても運が悪いんだわこのおじさん。もし彼の友人達が普通のサラリーマンだったり、役所勤めだったり、親から受け継いだ中小企業の社長レベルだったら、彼もこれほど友人達に嫉妬することもないだろうに…それなのに友人達はみんなとんでもない大富豪!有名人!
もちろん彼自身にも根本的な不満の理由はある。
…年を取ってきた(47歳)。中年街道真っ只中…今までのようには無理がきかない。これからの自分の人生にももうそれほどののびしろがあるわけでもないだろう。皺も白髪も増えた。身体もいろいろと調子が悪かったりするのかもしれない。元々ルックスも格好もあまり冴えない普通の男…高いスーツにピカピカに磨いたイタリア製の靴を履いて日々仕事をするような生活もしていない。そもそもそんな高額のスーツなんて買う余裕もない。
…まあ人間はいろいろと積み重ねて中年になるわけで、47歳にもなれば今まで送ってきた「普通の人」の人生がすっかり生活にも外見にも沁み込んでいて…もう変えたくても変えようが無いわけです。どうやら彼はそういうことにも焦っている。
このおやじはおそらく…派手な大富豪の友人達がいなければ、それなりに穏やかな人生が送れていたのかもしれない。…いや元々人と自分を比べる癖があって文句の多い人かもしれないな。いろいろと諦められない頑張りすぎの真面目な男なんですよね。ちっともリラックスしていない。
たいていの人は、45歳も過ぎれば自分の限界も見えるだろうし、出来なかったこともそれなりに諦めているものだろうし、人と自分を比べることもやめて、精神的にも自分の(それなりの)人生を受け入れて「まあこんなものかな」と思うものだろうに、この主人公のおやじは47歳にもなって、今の自分は学生の頃に描いていた「理想の自分」とは違うと「自分にがっかり」しているわけです。だから息子さんのお友達の21歳の女の子にさえ「おじさん、あなたはまだ世の中が自分のために回ってると思ってるの?」なんて呆れられてしまうわけだ(笑)。なんだか可哀想かも。
「俺はもっとこうだったのに」「俺はこうすればよかったのに」「なんで俺だけだめなんだよ」「あいつらと俺のどこが違うんだよ」「なんでなんだよ」「なんでなんで…俺は…」
ふぉ~苦しいねぇ(笑)。
そんなわけで、この映画を若い人(レビューアー)が見ると、ものすごくネガティブな暗い男の話に見えるらしい。とあるアメリカの批評家は「人生に文句ばっかり言ってるつまんない男のつまんない話。時間の無駄。」などと散々に酷評。
ところが年寄りの批評家にはそれほどウケが悪いわけでもない。
なぜなら…50歳も過ぎればわかる…皆過去のどこかで「自分を人と比べて嫉妬し、上手くいかない自分の状態を悶々とする時期」を誰でも通ってきているからなんですよね。若い時は負けん気があるからそんな自分の苦悩を認めたくない。しかし年寄りになればわかる…クラスのユキちゃんの方が私より綺麗だわとか、ミキちゃんはモテていいわねとか、レストランにいったらキチンのドアの前の席に通されてむっとしたとか、バーで無視されて哀しくなったとか…(笑)そんなの海亀だって数え切れないほどあるぞ。いやそんなのばっかりやぞ。だから年寄りには身に沁みるコメディとしても見られるわけです。自虐のように…ひゃー苦しい…。
評価の分かれ目は見る人の経験の違いでしょう。
年を取ればわかる人生あるある物語。現実よりも誇張し過ぎているのは映画だから。笑わせる意図なんだろうと思う。しかし観客の中には主人公の焦りがリアルすぎて笑えない人もいるかもしれない。
それにしても、ブラッド君は苦しいな。年を取ればいろんな事にいちいち怒っていたら身がもたない、心がもたない、何事も「まあいいや」…と笑えるようになった方が人生はずっと楽だということがよくわかる。プライドやこだわりは持ちすぎてもしょうがないのね。こういうのはなんとかしようと努力する必要もないんですよ。
だから、そんな(誰にでもある)悶々とする時期を既に通り過ぎた年寄りにとっては、この映画はかなりおかしい。ゲラゲラとは笑えないけれど、くすくすニヤニヤ小さく笑い、時々「うぁあわかる…だよな…」とうなずきながらも自分のことのように恥ずかしくて苦しくなって身もだえしてしまう。微笑ましかったりちょっと可哀想になったりもする。ブラッド君わかるわかりますよ…だけどもうちょっとリラックスした方がいいと思うぞ…そんなふうに親しい友人を見るような思いで、バタバタと苦しむ中年おやじを見つめる。そんな映画。
中年男性の話なので中年女性にとってはまぁ結局はひとごとで、ブラッド君が微笑ましかったり面白かったりもするわけですが、中年男性にとってはもっと身に沁みて居心地の悪い話らしいです。旦那Aが隣で身もだえして苦しんでいた(笑)。
ブラッドお父さんと息子のトロイ君の関係もいい。
成長しきっていない子供みたいなお父さんと、妙に落ち着いていて大人な息子さんトロイ君の対比が面白い。トロイ君は冷静な大人なのね。どこか大物。うだうだ世の中に文句言って焦ってドタバタしているダメおやじを冷静に見つめる息子さん。優秀な息子に嫉妬するお父さん、ちょっと恥ずかしいお父さん…というのも、きっとリアルなあるある話なんだろうと思います。でもお父さんは息子のために必死でがんばっているんですよね。ああいう親子は現実に沢山いそうだ。
映画の最後が(アメリカ式の)みんなでハッピーエンドじゃないのもいい。思ったよりさらっと終わる。映画の最後で主人公が心を入れ替えてすっきり幸せな男になるわけではないのがいい。
ブラッドさんはたぶん映画が終わる時もそれほど以前とは変わってないんですよね。彼はきっとこれからも悶々としてやっぱり文句を言って日々を過ごしていくんだろうと思う。しかし最後にほんの少しだけ光が見えるような描写があって、それが…彼がこれからいい方向に向っていく可能性をぼんやりと示しているのかもなぁと思った。そんな終わり方は悪くない。映画の尺内で無理に「改善」した人物を見せられるよりずっと自然でいい。
いい映画です。期待せずに見たら思った以上におかしくてリアルでいい話だった。
いい映画です。期待せずに見たら思った以上におかしくてリアルでいい話だった。
主演のベン・スティラーさんは、一見コメディにも見える苦しいダメおやじを好演。大変残念なめんどくさい男なのに、彼を嫌いになるよりも温かく見ていられるのは俳優さんの愛嬌なのだろうと思います。
注目は息子さんトロイ君を演じたオースティン/Austin Abrams君。21歳だそうです。大変落ち着いていて、お父さんよりもずっと大人なティーンの男の子が心に残ります。素晴らしい。彼はきっといい俳優さんになると思います。楽しみです。