能登半島地震 ─ 寄付・支援情報

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2016年4月18日月曜日

映画『ズートピア/Zootopia』(2016):負けないウサギちゃん





Shakira - Try Everything (2016)
 
Album:  Zootopia (Original Motion Picture Soundtrack)
Released: Feb 12, 2016
℗ 2016 Walt Disney Records


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Zootopia2016年)/米/カラー
108分/監督:Byron Howard, Rich Moore, Jared Bush
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 最近は「映画に行こうか」と思ったら、採点サイトの評価点数と予告編の映像だけ見て(めんどくさいので)解説や記事を読まずに出かける。
 
さてこの『ズートピア』はディズニー印の動物アニメ。もちろん見る見る見る。予告編も可愛い。子供向けの映画のはずなのに評価サイトRotten Tomatoでは98…おおそんなにいい話なの?子供向けですけどね…というわけで見に行く。
 
 
可愛いですよ。本当に可愛い。キャラのデザインがとても魅力的。怖いキャラもどこか可愛い。上手いです。昔のディズニーの動物ものは、怖い動物はそれなりにリアルで怖いデザインだったと思うのだけど(←『旧ジャングルブック』)、この映画の動物達はいい具合に擬人化されていて親しみやすい。…人なんですよねこれ。この映画の動物達は人。デザインを動物から借りているだけでキャラは人間。
 
内容は子供向けらしく元気一杯ながらも、とても真面目なものでした。近年のアメリカの子供向けアニメは大人が見ても唸らされるものが多いですが、これもそう。深いテーマです。面白いし、おかしいし(笑い満載)考えさせられるし…とてもいい映画です。本当に良く出来た映画。
 
可愛くて、ユーモラスで面白くて、希望と理想を語って、いい気持ちにさせてくれる映画。ちょっと小難しい解説も後ほど。
 
 
●あらすじ

あらゆる動物が住む街『ズートピア』で、ウサギ初の警察官になったジュディちゃんが大活躍。



--------------超ネタバレ注意…映画を見た後でどうぞ--------------

 
★少し踏み込んで読み解く

これはすばり偏見についての映画です。こんな話だとはまさか思わなかった。やっぱりハリウッドは子供にいい話を見せようとしていますね。もちろん一緒についてくるお父さんお母さんも教育する…そんな映画。
 
映画の全編でのテーマが「偏見をもつな」「偏見に負けるな」というお話。
 
ウサギのジュディちゃんが努力して警察官になっても、ウサギにはふさわしくないからと壁にぶつかって苦労する。キツネのニック君は本当は真面目な子供だったのに、キツネだから…と偏見でいじめられてグレて詐欺師に成長。街の大事件…ある日突然狂暴になるのは肉食獣だから…そんな偏見を主人公のジュディちゃんでさえも口にしてしまう。偏見はどこにでも誰の中にも存在する。
 
甘いもの好きで太めの陽気なチータ。か弱い羊は必ずしもか弱くない。ナマケモノは実はスピード好き。おっさん声の可愛いフェネック。トガリネズミのドン・コルレオーネMr.Big。外見と中身の組み合わせの意外なキャラ設定も狙ってます。
 
偏見を持つな。
偏見に負けるな。

その二つのテーマが何度も何度も繰り返される。

そして映画のテーマソングは「Try Everything」…歌詞は「打たれても負けない。失敗しても負けない。いろんなことに挑戦しよう」。

偏見はどんな国にもどんな場所にも存在する普遍的な問題。こんなメッセージ性の高い映画を作るアメリカも、現実には偏見を元とする様々な問題をかかえる国。アメリカという国は問題があったら必ずそれに対抗する動きの出る国。こんな映画が現在作られる背景も少し考えさせられる。


今から50年ほど前のハリウッドは「招かれざる客/Guess Who's Coming to Dinner」「アラバマ物語/To Kill a Mockingbird」等の映画で人種的偏見の問題を直接的に扱っていた。70年代には人権侵害の問題「カッコーの巣の上で/One Flew Over the Cuckoo's Nest」。ベトナム戦争の後には帰還兵に対する偏見を扱った映画も制作された。70年代後半にはWomen's Liberation=女性解放運動+女性の自立を扱った女性映画が多く作られた。近年では90年代から2000年代半ばまで人種問題に関する大量の映画が制作されていた。それぞれの時代の映画は、テーマに沿って焦点をぼやけさせない直接的な表現の問題提起型・映画が多かったように思う。

それに比べて現在のアメリカでは、偏見などのきわどい問題を娯楽映画で直接的に表現するのは難しい。なぜなら現在のアメリカ人の多くは「人種問題なんか存在しない」「偏見などない」「何も問題はない」という前提の娯楽映画を見たがるからだ。(まだまだタイプキャストが存在するとは言っても)たいていの大掛かりなハリウッド映画の中では、人種問題など全く存在していないように描かれるのが常。白人の主人公には優秀な黒人の同僚がいる。アジア人の医者や学者、黒人の政治家、大統領…そう、そうだ、アメリカの大統領は現実にアフリカ系ではないか…。

しかしながら、普通の市民にとって現実はそれには程遠い…のは、アメリカに住むアジア人なら誰でも知っている。人種問題だけじゃない。性、階級、教育、職業、宗教、民族、生まれた場所、国…等、様々な分野での偏見はバリバリに存在する。それに偏見はアメリカだけにあるものじゃない。偏見なんてどんな国にも世界中に存在する。それでも今のハリウッドは(過去の実話を元にした話を除いて)そういうテーマの娯楽映画をあまり撮りたがらない。なぜなら偏見や人種問題なんてみんな(特に白人は)

もううんざりしているからだ。


良識的な映画人は多くいる。子供には理想的な未来を担って欲しいとも皆思っている。しかし娯楽映画で真っ向から人種問題や偏見を扱うと観客に嫌がられてしまう。映画もビジネス。興行成績を上げることだって重要な課題だ。

それならアニメにしよう。アニメの動物キャラの映画で人種差別や偏見の問題をとりあげよう。偏見をもつことはいけないことだと教えよう。また子供達が成長の途中で他者からの偏見にぶつかっても、心折れることなく未来に向かってはばたけるように、強くあれと励まそう。理想と希望の映画を撮ろう。動物キャラなら、人種問題だって偏見だってわかりやすく、イヤミにならず、誰も傷つけず、問題の核心に迫った映画を撮ることが出来る…。

この映画はそんな映画です。本当にお見事。またまたハリウッドの力技。作品の高評価はそんなところにあると思います。真面目で良識的な映画。


…そんな小難しい事を考えなくてもこの映画は楽しい。小さいドン・コルレオーネ(マーロン・ブランドのパロディ)が出てきたら映画館中の大人達が大爆笑。主人公のウサギも本当に可愛いぞ。全ての動物キャラが魅力的。動物の細かいところをよく見ているなと感心する。

アメリカの子供向けアニメは毎年確実に進歩しているのが本当にすごいと思います。傑作でしょう。この映画は後でブルーレイを買いたい。小さい動物がうじゃうじゃ出てきて、どれもいちいち可愛いので絵の細部を映像を止めてじっくり見てみたい。