能登半島地震 ─ 寄付・支援情報

能登半島地震 ─ 寄付・支援情報

この度の能登半島地震で 被害に遭われた方々に心よりお見舞い申し上げます。 一日も早い復興をお祈りいたします。 ★NHK による様々な支援情報 能登半島地震 義援金・支援金の受け付け始まる 窓口まとめ 【随時更新】 https://www.nhk.or.jp/shutoken/ne...

2017年3月12日日曜日

NHK ドラマ10『お母さん、娘をやめていいですか?』全8話・感想


  
秀逸。質が高い。素晴らしいドラマ。重いですね。設定がリアル過ぎて苦しくなる。「母娘の戦い」の描写に息を飲む。
 
母親と娘(特に一人っ子)は、どこの家でも多かれ少なかれその関係がギクシャクする時期があるものだと思うけれど、そんな母と娘の関係にここまで詳しく踏み込んで描いたドラマは珍しいのでは。
 
 
★役者が素晴らしい
 
母親の顕子(斉藤由貴さん)のあの壊れっぷりは、リアルというよりも(視聴者にわかりやすくするために)誇張して描いているんだろうけれど、まぁ~~~怖いですね。見ていて苦しくなる。斉藤さんお見事です。
 
娘さんのみっちゃん/美月(波瑠さん)に大きな拍手。主演女優賞! 最初から最後まで彼女の演技が光ってました。上手い女優さんだ。彼女の顔を見ているだけで、美月の苦しみがひしひしと伝わってくる。母親にストーカーまがいにつけられているのを知って顔色が変わる様子。母親と口喧嘩になってもすぐに折れて自分を抑え「いい娘さん」でいようとする様子。必死で抵抗を試みるものの母親の異常さに押されて途方にくれる表情…なすすべもなく引き下がってしまう様子。彼女の目に絶望が見える…素晴らしいです。彼女の上手さがこのドラマの要。本当にいい女優さん。
 
 
★怖いほどリアルな祖母、母、娘の関係
 
キャラクターの設定がリアル。美月の母顕子と彼女の母(美月の祖母)の関係が「顕子と美月の関係の歪みの元」だという設定がリアル。脚本家さんはどこからこの設定を思いつかれたのか。怖いくらいリアル。おかしな母親は彼女自身も母親との関係で悩んでいることが多い。
 
顕子は元々非常に感情の起伏の激しい人なんでしょう。人との関係を感情だけで築く人。何事もサバサバと出来ない。好きになったらべったりだし嫌いになったら絶対に嫌い。いろんな意味で情が深くてToo Muchな人。
 
そんな女性が(不幸なことに)サバサバしてあまり優しくない母親・玲子(大空眞弓)に育てられた。子供の頃からあまり温かい愛情をもらっていないんだろう。あの年老いた母親は「あんたにはがっかりした」とか顕子に言ってたっけ?
 
 
母親から十分に愛情を与えられずに育った女性が、あまり真剣に考えずに適当に結婚していろいろと満たされなかったところに、可愛くて優秀な女の子が生まれた。子供は100%の愛情をくれる。子供はいつも「いい子」でいつもフルの愛を返してくれる。愛したら愛し返してくれる。何でも言う事をきいてくれる「いい子」…そうやっていつしか母親は子供が自分の人生の全てだと思うようになる。母親は子供の存在に依存するようになる。
 
12歳を過ぎる頃には、娘に自我が芽生えてくる。娘の反抗期が始まる。母親は狂ったようにそれを押さえつける「みっちゃん、そんなことないでしょ。ママの言うとおりにしていればいいのよ」。
 
元々「いい子」だった娘はママをがっかりさせたくない。ママといつも仲良くしていたい。娘は次第に自分を抑えるようになる。自分の気持ちを押し殺すことが習慣になってしまう。そうやってこのドラマの美月は20代半ばまで自分を押し殺してきた…。
 
こんなふうにドラマが始まる前の数十年間を想像出来ますね。だからすごいのよこのドラマ。こういう話って現実にもありますね。子離れ出来ない困った母親と、自己主張出来ない「いい子」な娘の関係の歪みの根はだいたいこのあたりにある。恐ろしいほどリアルです。
 
-----------------------------------------------
母親が自我を持ち始めた子供(特に娘)を押さえつけて、狂ったように叱ったりする行動は境界性パーソナリティ障害(Borderline personality disorderによるものらしい。顕子もそのように見えますね。ちょっっとWikipediaから思いつく症状を抜き取ってみると

・現実に、または想像の中で見捨てられることを避けようとする気も狂わんばかりの努力
・顕著な気分反応性による感情不安定
・不適切で激しい怒り、または怒りの制御の困

顕子の行動、言動はこれにかなり近い。
-----------------------------------------------

…こういう母親って現実にもいますよ。自分の満たされなかった心を子供(特に娘)で満たそうとする母親。子供を自分の支配下に置いて完全にコントロールすることで自分を満たそうとする母親。子供にいつも「自分のために都合のいいいい子」であることを要求する母親。娘に愛を与えそれ以上の愛を要求する母親。…愛に飢えているのは母親の方。

心を病んだ顕子のキャラクターの設定があまりにもリアルなので話に引き込まれる。ドラマらしく大袈裟すぎる顕子の異常な行動(娘のデートにストーカー行動、嫉妬に狂い新築の家に忍び込んで汚す、娘の恋人にすがりついて泣く、娘には恋人と別れろと言う、家を出た娘の恋人の家に勝手に上がりこんで掃除をする、料理を作る…)も、まぁドラマとしてならアリかな…と思えてしまうのは、基本の人物の設定がしっかりしているから。現実的にはありえないですよね、あんな母親。怖すぎる。

斉藤由貴さんが怖いんだわ。まさかここまで酷い人は現実には少ないだろうけれど。しかしこのような母親のエゴはどんな母親にも多かれ少なかれ存在するものなのかもしれない。


斉藤由貴さんがこういう母親の役をなさっていることも考えさせられる。彼女は私とほぼ同世代なんだけれど、私の世代の女性があれほど子供に執着、依存するものなのか不思議。というのも私の世代は若い頃にバブルがあった世代で、この世代というのはそれ以前の時代の女性よりもずっと自由だったから…女性も若いうちから自立して自分の意志で人生を切り開くことができるようになった世代。時代が豊かになって、過去30年間、娯楽でも物欲でも自分を楽しませることはいくらでもできたはず。だからこれほど過去の母親との関係に押さえつけられ、また自らも子供を押さえつけてしまう女性が今の私の世代にいることに実感が湧かない。本当にこんな寂しい母親、私の同級生にもいるんだろうか?

そもそも子供を持たなかった私にはわからないことも沢山あるんだろうと思う…絶対にわからない。無理無理。娘/子供とはこんなにべったりと執着、依存したくなるほど可愛いものなんだろうか。不思議。


とにかく見事です。優れた人物設定に、上手い役者さん、身につまされる普通の家庭内の不協和音。秀逸なドラマだなと思う。


★脇役もいい

基本は母と娘の話ですが、周りを固めた俳優さんもよかった。

ふてくされても美人の学生・後藤さん(石井杏奈)。石井さんは何かが気になる。なぜなのか今はまだわからない。でも彼女のことはどうも気になる。これは書きとめておこう。これから人気が出るかも。

影の薄いお父さん(寺脇康文)。いろいろと可哀想だけれど、…しかしこのお父さんは若いうちから奥さんときちんと会話をしてこなかったんでしょうね。奥さんのわがままをどうしてあれほど野放しにできるのか。優し過ぎるんだろうなぁ。困りましたね。

それから美月が自分の周りに築かれた「鳥カゴ」に気付くきっかけを作ってくれた松島君(柳楽優弥)。この俳優さんはいい。男らしい。どこか古風な感じがする。この俳優さんも今どき珍しく年齢相応に男臭い。それがいい。このお方もどこか昭和の俳優さんのような雰囲気がある。

そもそも松島君のキャラクターの設定がなぜか古風な男なのね。適度に強引で、適度に踏み込んでくれる。笑顔に見え隠れする照れも可愛い。柳楽さんはまだ26歳だそうですが、どこか頼りたくなるようなしっかりとした雰囲気は、柳楽さんが結婚していらしてお子さんがいらっしゃるからかもしれません。同年代のアイドル俳優には見えない落ち着いた男らしさがある。この俳優さんは、いつかいい時代劇で見たい。(いい時代劇を書ける脚本家がいるかどうかは疑問だけれど)


しかしこの松島君を見ていて思った。女性は、結局一歩踏み出してきてくれる男性がいいんだよな。本当よ。若い娘さんたちに告ぐ…デートしていてウィンドウに映った自分の姿を見て髪型を直すようなナルな男はやめた方がいいです。男性は適度に荒っぽくて、がさつで、でも肝心なところで繊細に女性を気遣ってくれるような人がいい。真面目な人がいい。

この松島君は、かなり強引に美月さんのことを助けようとしてくれている。こんな踏み込んだアプローチは普通ならたぶん嫌だと思う女の子も多いと思う。でも彼は強引そうに見えて、自分と付き合うことは強制していない。かなり礼儀正しく古風に美月さんに近づいてますよね。時には照れて冗談を言って笑ってごまかしたり…それでも彼女を好きなことはかなりはっきりと態度にも言葉にも出してくれている。女性は悪い気はしない。こういう風に男性がリードしてくれたほうが女性は安心できる。そんなところも松島君が古風に見えた理由。

若い男衆は好きな女性がいたら自分からアプローチするべし。
みんながんばれよっ…ってそこで感想をしめるのか。

 

2017年3月9日木曜日

Gun - Word Up (1994)



スコットランドのHRバンド。



Gun – Word Up (1994)

Album:  Swagger
Released: Jan 01, 1994
℗ 1994 A&M Records Ltd.


この曲は以前からとりあげようと思っていた。実はBABYMETALちゃんのKornサポートのニュースでまず浮かんだのがこの曲。

というのもKorn2004年にこの曲のカバーを一度やってるからなのよ…でそれが全然良くないんだわ。リズムがぴょこぴょこしててガツンと来ない。だから私はそのカバー1曲だけでKornというのはオルタナのしょぼいバンドだとばかり思っていた。現在KornMetalでかなりの大物だそうです。知りませんでした。

まぁKornの話はいいや。というわけでGUNの「WORD UP」。


この曲はもちろん1986年のCameo先生のヒット曲。この曲のことは昔書いたんですけど、比べ易いのでここにも映像を張っておこう。この曲はワタクシが若いころに流行ってました。ゴルチエの赤パンツ。

 
Cameo - Word Up (1986)



Cameo - WordUp (1986)


…でこのGunのカバーに出会ったのはたぶん東京。1994当時どこかのCD屋の店内で流れていたんだと思う。たぶんこの曲の入ったアルバム『Swagger』も買った。でもこの曲だけしかピンとこなくてそのCDも売ってしまった。

その後英国で、Kerrang!誌の出したCDKerrang! Welcome To Planet Rock』にこの曲を発見。それから友人と(1997年ごろSOHO界隈にあったHR/HMパブに行ったら、たまたまこの曲がかかっていたり…流石英国のバンド。名前を聴くことがあったのでちょっと嬉しかった。この曲は英国で1994年に8位だったそうだ。


スコットランド・グラスゴー出身のHRバンドだそうです。90年代後半に一度解散して、2008年に再結成。今も現役で活動しているらしい。

昔はボーカルが金髪だったよねぇ…おっと前のボーカルは違う人らしい。今のライブの映像をみるとボーカルが濃いいい男ではないか。ダンテ(Dante Gizzi…名前から察するにイタリア系だな。



GUN - 'Word Up' (live at King Tut's) 2014



このライブは2014年のグラスゴーで。スタジオVer.ほどのキレはなくちょっとダレているものの、スタンダードなHRバンドの音。日本のライブハウスでもこういう感じのオヤジバンドはいそうだ。とにかくボーカルのダンテさんがいい男だな。ライブもまったりと楽しそう。いい感じ。見たいな。


元曲のCameoVer.は非常にキレのいい凝った音の80年代のFunkで、その上にあのMVのユーモア」の息抜きで、かなりいいセンスだったと思うのですが、このGunVer.真っ向から直球の真面目ゴリゴリロックのアレンジで少しダサい…でもこのダサさが逆にいい。いかにも実直にHRをやってるスコットランドのバンド。いいな。

なんだかCheap Trickに似ているかも。

私はこういうオヤジの頑張りが好きだ。長い間バンドをやり続けて出る余裕。ゴリゴリの気概と勢いだけの若い時期を過ぎてちょっとダラけるぐらいのオヤジの余裕。だけど手馴れている余裕。演奏も余裕。オヤジのゆとり。

最近のメタリカも随分柔らかくなってますよね。TVにもよく出て面白いおじさんの顔を見せてくれている。そんな大人のバンドならではの余裕が好きだ。



BABYMETAL:5月にKORNのサポート決定!



BABYMETALちゃんのニュースです。アメリカ・カリフォルニア出身のNu-Metalのバンド・KORNさんの前座ツアーが決定したそうです。おお。




アメリカにまた行くのね。がんばるなぁ。
スケジュールは以下の通り。

KORN "The Serenity Of Summer” Tour
6/18 - Albuquerque, NMニューメキシコ州 @ Isleta Amphitheater
6/20 - Chula Vista, CAカリフォルニア州 @ Mattress Firm Amphitheatre
6/21 - Inglewood, CAカリフォルニア州 @ The Forum
6/22 - Mountain View, CAカリフォルニア州 @ Shoreline Amphitheatre
6/25 - Nampa, IDアイダホ州 @ Ford Idaho Center

5公演。
その前の4月にはレッチリの前座ツアーがあるので、かなり忙しいです。
4月のレッチリとの公演は、

Red Hot Chili Peppers + Babymetal 2016 US Tour Dates:
4/12 - Washington, D.C.,  ワシントンD.C @ Verizon Center
4/14 - Atlanta, GAジョージア州 @ Philips Arena
4/15 - Raleigh, NCノースカロライナ州 @ PNC Arena
4/17 - Charlotte, NCノースカロライナ州 @ Spectrum Arena
4/19 - Columbia, SCサウスカロライナ州 @ Colonial Life Arena
4/22 - Little Rock, ARアーカンソー州 @ Verizon Center
4/24 - Jacksonville, FLフロリダ州 @ Jacksonville Veteran's Memorial Arena
4/26 - Orlando, FLフロリダ州 @ Amway Center
4/27 - Tampa, FLフロリダ州 @Amalie Arena
4/29 - Miami, FLフロリダ州 @ American Airlines Arena

今回もKORNさんからのオファーでしょうか。それともBABYMETALをアメリカに売りたいプロモーターがセッティングしてくれるのか…?まさか日本側からお願いして出来るものではないだろうと思う。こういうのってどうやって決まるんでしょうね。


アメリカは道無き道。大変な挑戦なんですよ。どうなるのか全くわからない。茨の道かもしれない。

(前回のレッチリの米国でのサポート決定のエントリーでも書きましたが)海亀は、BABYMETALさんは…去年の英国でのウェンブリー・アリーナや「BEST LIVE BAND賞」で…「日本人の海外での成功の目標地点」には既に到達したと思ってます。十分すぎるほどの成功。BABYMETALさんは「日本人がここまで行ければいい」というレベルは大きく超えてしまった(個人的な思い込みですが)。

これから先…特にアメリカ…はどうなるんだろうと思う。アメリカは全く未知の世界。残念ながら今のところビルボード・トップ5も(Gのつく)賞の可能性も見えない。そもそもアメリカではHR/HMがポピュラーな分野だと思えないし、HM/HRの主なリスナーであるマッチョな男達を唸らせるのは至難の業…彼らは、音楽の面白さでBABYMETALを受け入れてくれた英国の優しいおじさん達ほど柔軟じゃないと思う。(だから私はアメリカのマッチョで野蛮な男が大嫌い)

KOBAさんや3人の女の子達が楽しく進んでいけるのであれば、もちろん応援したい。しかしなんとしてでも頑張れ、無理をしてでも行けとは思わない。彼女達の進む道を温かく見守りたい。彼女達の努力で、また嬉しい結果が出ますよう、彼女達がまたいい景色を見る事ができますように。


しかしKORNとは誰?知らない。Nu-Metalもよくわからん。

あ、1曲だけ知ってるぞ。大昔にCameoの「Word Up」のしょぼいカバーをやってて、「こりゃだめだな」と思った 😝。なんだかメタルの大物になってるみたいなので驚き。動画サイトで近年の曲も見てみたけどよくわからなかった。なんだか色んな過去のバンドの曲をぬるま湯で茹でてメタルの味付けをした感じ 😔ゴメンネ

でもBABYMETALのことは気に入ってくれてるらしいぞ。

2017年3月5日日曜日

映画『ムーンライト/Moonlight』(2016):少年の成長を見守る監督の優しい目・美しい映画








-----------------------------------------------------------------------------
Moonlight2016年)/米/カラー
111分/監督:Barry Jenkins
-----------------------------------------------------------------------------

 
静かな映画です。とても美しい映画。心に沁みる。

いい映画というのは感想を書くのが難しい。映画が終了して10分以上も過ぎてから涙がジワジワと湧いてきた。目尻がヨレヨレになる。


★大きくネタバレ注意
---------------------------
孤独な少年の話です。おとなしくてシャイで、まわりの腕白坊主達にいじめられても言い返す事ができない男の子。おどおどしていつも下を向いている。小さい身体のためについたあだ名は「Little/チビ」。

このシャロン君が可愛い。小さな丸い頭が繊細な細い首の上に乗っている。いつも下を向いていて上目遣いに人を見る。不安なのね。ぎゅっとハグして「大丈夫」と言ってあげたい。

…とある日の午後、いじめっ子に追いつめられていたところを優しいおじさんに助け出される。このホアンおじさんが助演男優賞をとったマハーシャラ・アリさん。優しい。彼は心を閉ざすシャロンを食事に連れ出し、自宅に呼んでご飯を食べさせ…ことあるごとに可愛がってくれる。おじさんが与えてくれるのは父親のような温かい愛。

おじさんはシャロンに言う「…you gotta decide for yourself who you're going to be.自分が何になるかは自分で決めるんだ」

やがて少年は成長しティーンになっている。ティーンになってもおどおどした内気さは変わらない。常に不安なのは家庭が安定していないからだろう。クラスメートには相変わらずいじめられるし、母の薬中毒はますますエスカレートしている。子供の頃から仲の良かったケヴィン君が唯一の友達。

シャロンとケヴィンのビーチのシーンは美しい。孤独だった少年が受け入れられ心を開く瞬間「ああよかった」と心から思う。

時は流れる。シャロンは成人し「Black」と呼ばれている。あのガリガリで小さかったシャロン/Littleは随分大きな男になった。子供の頃に可愛がってくれたホアンおじさんと全く同じ事をしているのが泣ける。彼はずーっとホアンおじさんに憧れていたのね。

大人になったシャロンは一見自信に溢れた強い男…周りにやられない為に自分で身体も鍛えた。タフな男として振舞う事も出来る。それでも過去の傷は癒えていない。時には悪夢で過去がよみがえる。

ある日、10年間も連絡が途絶えていた幼馴染のケヴィンが電話をかけてきた。昔、たった一人の友人だったケヴィンにシャロンは会いに行く。見上げるような大男のシャロンの表情に、小さくて繊細な「Little」の顔が見えてくる…。
---------------------------


俳優さんたちの演技が素晴らしいです。助演男優賞受賞のアリさんだけではない、ほかの俳優さん達も素晴らしい。薬物中毒の母親、友人のケヴィン、子供の頃、ティーンの頃、それに成人したシャロン…一見無表情に見えるのに内で感情が大きく動いているのがわかる。無言でも嬉しそうだったりがっかりしているのがよくわかる。

美しい画面。どの場面も絵画のように美しい。

カメラワークが生々しい。冒頭は乗り物酔いしそうになるほど揺れる。多くの場面ではカメラがシャロンの見ているものをとらえている。ホアンおじさんに泳ぎを教えてもらっているシーンでは、画面の半分が水に浸かっている。人物達と一緒に水の中に入っているような映像。どの場面でもカメラは常に人物達のすぐ側にいて彼らを親密に見つめている。

人物達の顔のすぐ近くまで迫っていくカメラ。息遣いが聞こえるほど近いから、台詞がなくても人物達の心が読み取れる。台詞が少ない映画だけれど説明不足だと感じることはない。むしろ台詞がないから人物達の表情に集中できる。

芸術的な撮り方をした映画は、表面は美しくても中身が無いことがあるものだが、この映画はむしろ中身に集中する為に芸術的な表現をとった…人物の心を表現するために台詞を少なくしているようさえ見える

心で心を直接感じる映画

人物の哀しみ、苦しみ、もどかしさ、焦り、不安、とまどい、安堵…を俳優の演技と表情だけで感じることができる…シャロンの心を心で感じることができる。だから心に響く。

じわじわと心に響いて、後から涙が出る映画は珍しい。この文を書いている今も、場面を思い出すだけで目尻が緩む。なんとも説明し難い不思議な感覚。脳が事柄を理解する前に人物の感情が直接心に沁み入ってくるそれがこの映画のすごいところだろうと思う。


アカデミー賞は当然でしょう。

 実はこれほど素晴らしい映画だとは期待していなかった。ポスターの印象はかなり悪い。本当に大きな誤解。こんなに繊細で美しい映画なのに、暴力映画だとばかり思っていた。


アカデミー賞の受賞を見て、週末の土曜日に鑑賞。

この映画が賞をとって本当によかったです。「ラ・ラ・ランド」が作品賞を取っていたら私はものすごく怒っていただろうと思う。
バリー・ジェンキンス監督のインタビューをいくつか見たけれど非常に知的な方。繊細な感性を持った優しい方だろうと思います。現在37歳だそうです。この映画は(今まで不当にチャンスが与えられなかった)アフリカ系の優れた映画業界の人々に多くの扉を開くきっかけになるのだろうと思う。

シャロン君のとてつもない孤独に心が締め付けられるようだ。うちにつれて来てご飯を食べさせてしっかりとハグしてあげたい。「大丈夫だよ」と言ってあげたい。彼に幸せになってほしい。