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2018年6月13日水曜日

映画『The Rider』(2017):アメリカの原風景






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The Rider2017年)/米/カラー
104分/監督:Chloé Zhao
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Brady Jandreauさんに関する内容を619日に修正しました
 
 
 
静かな美しい映画です。


ムービーデータベースに書かれたあらすじは、
After suffering a near fatal head injury, a young cowboy undertakes a search for new identity and what it means to be a man in the heartland of America.
頭に命に関わるほどの大怪我をした後、若いカウボーイが新しいアイデンティティを探す…アメリカの大地で男として生きる意味とは。


サウスダコタ州。主人公ブレイディは若いカウボーイ。彼がロデオで大怪我をしたところから映画は始まる。ブレイディにとって馬は全て。子供の頃から両親に馬の扱い方を教わり、その土地の若者達皆と同じように、彼も子供の頃からロデオのスターになることを目指していた。彼の名が人々に知られるようになった頃のある日、彼は落馬で大怪我を負う。頭蓋骨損傷。頭の中には金属のプレートが入れられた。

日常生活に支障はない。出来ればロデオに戻りたい。しかし手には怪我の後遺症がまだ残っている。今度落馬すれば命の保証はない。


夢を失った青年の話です。彼にとって人生の全てだったロデオがもう出来ない…それは彼にとって生きる意味を奪われたのと同じ。一人の若者のパーソナルな話なのだけれど「ある日突然生きる目標を奪われた若者」…これは誰にでもありうる普遍的なテーマでもあるでしょう。

ストーリーはないようなもの。ブレイディの日常を淡々と描くのみ。途中でストーリーの流れを変えるような大きな事件が起こるわけでもない。淡々と青年の日常を追うのみ。それなのになぜこの映画はこんなに心に沁みるのだろう。


大切にしてきたものが失われた。人生の全てが変わってしまった。

この若者は悲しいんですよね。どうしていいかわからないほど辛い。それでも彼が大声で泣き叫ぶことはない。この青年はきっと「男は騒ぐものじゃない」と日々言われて育ったのかもしれない。(まだ若い人なのに)自分の悲しみに溺れず日常を淡々と過ごしているのは、彼の心の強さなのだろう。そしてそんな彼は周りの人々や馬にとても優しい


カメラはブレイディの心の変化を淡々と捉え続ける。度々大写しになる美しい横顔。

この主役の青年…本名ブレイディ/Brady Jandreauさんプロの俳優ではないらしいです(他の登場人物達も実在の方々。ブレイディの家族は本当の彼のご家族だそう)。彼は監督がサウスダコタ州のインディアン居留地/Indian Resarvation次の映画のリサーチをしている時に知り合ったカウボーイ/ロデオの騎手/馬のトレーナーだそう。ご本人もロデオ中に大怪我をなさって、それで急遽「彼の映画」を撮ることが決まったらしい。ほぼ実話をご本人が演じているんですね。

だからブレイディの馬に関する技は全て本物。

彼が誰にも懐かなかった暴れ馬アポロを辛抱強く調教する様子には感動する。大変美しい。広大な大地を一人馬の背に乗って走る若者…これはアメリカの人々(特に年配の男性)にはたまらない風景だと思う。マルボロ・マン。私もこのシーンで涙が出そうになった。

一人の若者のパーソナルな話はユニバーサルに。心に沁みます。


監督は中国出身の女性の監督さんだそうです。Chloé Zhaoさんは1982年北京生まれの36歳。10代から英国の寄宿学校で教育を受け、後に米国に渡り、米の大学で政治学と映画を学んだそう。2008年からショートフィルムを撮り始め、2015年には初の長編映画『Songs My Brothers Taught Me』を監督。この映画『The Rider』は彼女の2作目の長編映画。

とても美しい映画を撮る監督さんだと思います。ネイティブ・アメリカンを描いた前作も見てみたい。


それにしてもこのような「アメリカの原風景」外国人の、それも若い女性が描いているということに私は少なからずショックを受けました。私はこの映画は、アメリカの中年の男性の監督が撮っているのだろうとばかり思っていた。この監督さんの前作はインディアンの話で今回はカウボーイの話。彼女がこういう「アメリカの心」を描くような映画を撮っていることがとても興味深い。時代はますます変わってきているのかもしれないと思う。