能登半島地震 ─ 寄付・支援情報

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2016年6月30日木曜日

TBS 火曜ドラマ『重版出来!』全10回・感想



好きだったドラマの感想は書いておこう。いつも新しいドラマが始まると大抵の番組は予約録画をして見始めるのだけれど、面白くなければ簡単に見るのを止めてしまう。最後まで見続けるのは好きなドラマだからなんですよね。

このドラマも前情報は無く見始めた。実は最初、黒木華さんの黒沢心ちゃんのキャラに馴染めなくて脱落するかと思ってしまった。

原作は漫画の作品なんだそうです。漫画のせいなのか、主人公のキャラがあまりにも嘘っぽくてなかなか馴染めなった。だってあんな女の子今どきいないでしょう。『スチュワーデス物語』か。元気一杯「ハイッハイッガンバリマスッハイッ…」…って…あーだから体育会系なのか…。

黒木華さんは悪くない。しかしあのキャラはなかろう。実は1話から内容は深くて話には引き込まれたんですよ。だから余計にあのとってつけたような元気キャラが浮いて浮いて…。おそらく原作の漫画のキャラがああいう感じだったんでしょう。…だったら別の女優さんでもいいような…。

…などと文句を言いながらもとりあえず見続ける。
そうやって見続けていたら、

だんだん良くなってきた。
 
このドラマ、まわりにもいい役者さん達が沢山出ている。上手い方々。そして話の内容が非常に濃い。かなり深い。だんだん見ているうちに驚くほど深い内容でびっくりさせられる。
 
 
一番心に残ったのは、

ムロツヨシさんの回。

7。成功を夢見て20年も頑張ってきた漫画家の卵/アシスタント40歳の沼田(ムロ)が、突然現れた天才中田を見て現実を見つめなおし、夢を追う事を断念する話。切ないけどいい話です。最後中田に別れを告げて一人歩き始める沼田君の顔は涙でゆがんでいる…私も泣く。あの場面はね…夢を追ったことのある人間には心に突き刺さりますよ。いや私は夢を追うことに憧れただけだったけれど。それでもあの気持ちはなんとなくわかる。夢を断念すること…漫画家でも俳優でもミュージシャンでも映画監督、ゲーム作家、アイドル、職人、優秀な営業マン、ベンチャー業の事業主、様々な成功…ああいう話はどんな夢にもあてはまる。成功の結果が華やかであればあるほど、志半ばで夢を断念する人の数は多いだろう。一人の成功者の後ろにはきっと何千人、何万人の敗者、脱落者、離脱者がいる。ムロさんと共に泣いた人も多かったんじゃないだろうか。
 
そこからますます目が離せなくなった。
…と思ったら10話で終了。おおぉ。
 
ドラマが終わる頃には、人物達全員にも馴染んできて毎週が楽しみでした。心ちゃんのキャラには最後まで違和感がなかったとは言えないけれど、それでも十分馴染んだ。いやー正直もう少しリアルな普通の女の子のキャラの方がいいんではないかと思うけれど。…しかしあのキャラは誰がやってもうざいな(笑)。…この話は、心ちゃんが花咲か婆さんのように周りの様々な問題を毎週解決していく話なので、ああいういかにもフィクションっぽいキャラの方がいいのかもしれないですね。
 
ところで三蔵山先生…小日向さんがすごいなと思う。現在丁度NHK大河でワガママな天才秀吉をなさっているので、この穏やかで紳士的な小日向さんには驚く。印象が全く違う。こんな優しい人はいないでしょう…というくらい紳士。大河の秀吉とは正反対。小日向さんはすごい方ですね。
 
 
ともかく最初は軽い話だろうと思っていたのに、毎回かなり深刻な内容なのでどんどん引き込まれた。以下、大変乱暴なあらすじ。真面目に見ていなかった回もあるので記憶があいまい。
 
1話:三蔵山先生(小日向)のスランプ問題
2話:うだつの上がらない営業の復活
3話:わがまま看板漫画家高畑
4話:漫画家の金の卵2人発掘。東江を先輩編集者安井に引き抜かれる
5話:社長の話
6話:新人ツブシの安井+東江。悩む東江。安井の過去
7話:天才中田+沼田(ムロツヨシ)
8話:伝説の漫画家・牛露田+娘
9話:漫画家高畑…引き抜き事件
10話:中田単行本 先生受賞

原作は漫画作品。実際に漫画家の方が書いた話だからなんでしょう…才能やプライド、嫉妬、競争、スランプ等の、作家(作る人)の内面の話、それから関わってくる外の人々の苦労…家族、編集、営業、本屋さん…等々、作品が出来るまでのリアルな現場の話がとても面白かった。作品は作家にとって身を削る芸術であり、また同時に本を作るというのは現実的な商売ですからね。いろんな裏の物語があるんだろうと思います。それが垣間見えたのが面白かった。
 
(繰り返すけれど)一番心が動いたのは天才中田君とムロツヨシ沼田君の第7話。これは泣けた。しかし天才中田君も心に闇を抱えているのね。深いですね。この回は心に染みる言葉が多かったので、録画を見直して台詞を書きとめておこう。
 
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三蔵山先生:一つ一つ作品を作るということは、自分の心の中を覗き続けるということだ。どんなに醜くても情けなくても、向き合わなくてはならない。

●沼田の独白
沼田:小さい頃から漫画が好きだった。描いた漫画を友達に褒められて、漫研でも一番上手かった。二十歳で賞だって取った。でもそれからずっとネームはボツで、何年たってもボツばかりで、いつまでもアシスタントで、みんなどんどんプロになって売れっ子になって、冗談言って悔しさをごまかして、まだやれる。まだ諦めない。俺は漫画を描く。まだ描ける。まだ、描ける。(中田について)…圧倒的な才能。小さな、小さな自分。アイツは自分に正直で、他の事などお構い無しで、自由で、残酷で、漫画の神様に愛されるのは、きっとああいう男だ

中田が沼田の漫画を読んでいる。誰も理解してくれなかった漫画を読んで中田が言う。「これは自分自身の存在を問う物語です。」中田は理解してくれた

沼田:(過去の編集者について)この編集さんは感性が鈍いのかもしれない。一人一人好みも違えば、持ってる教養だって違う。自分の書きたいものとこの人の興味が一致しないのなら仕方ない。(意に沿わないアドバイスをしてくれた先生には)…ありだとは思う。でも俺の作品とは違う。いつか自分の自由に描ける時がきたら世に出そう。いつか、いつか、いつか、いつか、いつか…。

黒沢心:天才はみんなに夢を見せる事ができる。だからこそ、近くに影を作ってしまうのかもしれません。

●沼田と三蔵山先生の会話
沼田40になりました。二十歳から倍も経ってしまいました。倍もの時間、戦わずに来てしまいました。いつか理解してもらえる。いつかいい編集者にめぐり合える。いつか認めてもらえる。いつか。そうやって本気で戦わないまま、ここまで。そのくせ同級生のサラリーマンには言ってたんですよ、偉そうに「ものづくりはこうじゃなきゃいけない。クリエーターたるものこうであらねば」夢を追いかけてる自分は、他の人とは違う。そう思いたかったんです。漫画家を目指してる間は、特別でいられた。特別な人間でいたかったんです
三蔵山:自分に向き合ったんだね。
沼田:時間がかかりました。

●中田に別れを告げ遠ざかる沼田
沼田:ずっと漫画のことだけ考えていた。子供の頃から。36524時間。幸せだった。現実なんていらなかった。ただ漫画の中だけで生きていたかった。
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中田君だけが理解した沼田君の漫画…アンドロイドの話…を読んでみたいと思ったのは私だけだろうか。沼田さん、酒屋を継いでも作品は完成させればいいのに…。