2015年10月21日水曜日

NHKスペシャル・私が愛する日本人へ ~ドナルド・キーン 文豪との70年~



ここのところ、猫と遊んだり他の事が忙しくてなかなかTV番組の録画を見る時間が無い。放送から何週間も経った後にやっと番組が見れたりする。この番組も録画していたものを視聴。

日本での放送は1010日。日本文学者・ドナルド・キーンさんへのインタビューを交えながら、日本文学と共に歩いたキーンさんの人生を追う。


まず思ったこと。

谷崎潤一郎の『細雪』を読もう。

この番組を作ってくださったNHKさんに感謝いたします。いい番組でした。キーンさんは有名なお方なのでお名前は存じ上げておりましたが、お仕事の内容はほとんど知りませんでした。これほどまでに日本人の心を掘り下げて下さったお方だったとは…その事を知ることができてとても嬉しい。

ここはうだうだと私の番組への感想を書くよりも、心に響いたキーンさんのお言葉(ドラマ内の台詞も含む)を記録しておきたい。…キーンさんを演じた川平さん、素晴らしかったです。川平さんのスタジオ・パークの出演で番組の事を知りました。感謝。


特に心に残ったのは番組の最後。
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戦時中、谷崎潤一郎氏が月刊誌に『細雪』の連載をしていたところ、途中で出版社から
「…(戦時下に)好ましからぬ影響あるやを省み、この點遺憾に堪へず、ここに自粛的立場から、今後の掲載を中止いたしました。」
…と連載を中止されてしまう。その後も谷崎氏は疎開先で『細雪』の執筆を独自に続けていた。
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●そのことについて…キーンさん
『細雪』には日本人の伝統的な営みがゆったりとした調子で書かれています。それが、戦意を高揚させる文学ばかりが推奨される時代の空気とは合わなかった。それでも、日本文化の素晴らしさを『細雪』に書いたことこそが、谷崎先生の静かな抵抗だったのではないかと…。連載が中止されてもなお、谷崎先生は強い意志をもって『細雪』を書き続けたんです。
 
●ナレーション…いつの時代も私達は社会全体を巻き込む大きな渦の中で生きざるを得ない。その中でも淡々と自分の信じる道を進む日本人がいた。
 
●公演で…キーンさん
 谷崎先生が…伝え続けたメッセージ。それは「日本人の本当の美しい部分を忘れるべきではない」。時代に決して流されることなく、自分の信じる道を歩み続けた谷崎先生。その姿こそ、日本人の素晴らしい生き方として、私は皆様に知っていただきたいのです。
 
●インタビュアー・渡辺謙さん…日本人は大きな渦に流されやすいが…
 
●キーンさん
 (日本人は)皆そういう感じ。大きな(渦の中の)人達と一緒にいることを喜ぶ。谷崎先生の目的は「こういう文化のある国だった」とか、日本は(戦時中の)戦争戦争というようなところではなく「日本人には美しい音楽、美しい小説、美しい庭がある」と感じていた。そして彼(谷崎)は「もう以前のような日本はないかもしれない」(と考えて)それを記録して、未来の人が「これが本当の日本だった」とわかるように、谷崎先生は『細雪』を書いたと私は思う。
 
渡辺謙さん…世間の大きな渦に流されず、書いていたことに驚く…
 
●キーンさん
家族のこともある。いろいろ問題があるから、そう簡単に自分一人で立ち上がることはできない。本当に勇気があったと思う。多くの人が「私達は仕方がないから自分も(他の人と)同じことをやろう」と満足するのは良くない。ともかく、そういう人がいたことは日本の誇りだと思います。
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この谷崎潤一郎さんの『細雪』をめぐる話は、偶然なのだけど、先日感想を書いたスピルバーグ映画『Bridge of Spies』の主人公・ジェームス・ドノバン氏の生き方=スピルバーグ監督のメッセージにも似ていてはっとさせられる。
 
~周りに流されず淡々と自分の信じた正しい道を歩く。周りからのプレッシャーもあって困難でも、勇気を持ち強い意志で正しい道を進む~
 
 
戦後70年。現代の日本人は谷崎さんから見れば未来人なんだろう。その中のひとりである私も谷崎さんの書いた戦前の「本当の日本」を今とても知りたい思う。
 
海外に住んで長い時間が経てば、自分の中身が現実には何パーセント日本人らしいのかわからなくなることもある。昔の日本。戦前の日本。伝統的な日本…。『細雪』に描かれた日本は、実際には、おそらく戦前の数十年間の時代に限った日本らしさなのだろうとも思う。それでもそこにはその時代独自の美しさがあった。谷崎さんが未来の日本人のために残したかった「日本の姿」を、その当時に書かれた言葉で読んでみたいと思う。
 
ドナルド・キーンさんに感謝いたします。