2015年1月27日火曜日

映画『6才のボクが、大人になるまで/Boyhood』(2014);リアルすぎる12年間



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Boyhood2014年)/米/カラー
165分/監督:Richard Linklater
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映画ビフォア・シリーズで知られるリチャード・リンクレイター監督が撮った実験的映画。12年間の年月を継続的に、同じ俳優が同じ人物を12年間かけて演じる。お話は米テキサス州のとある一家の12年間の記録。6歳の男の子が成長して18歳で高校を卒業するまでを描く。
 
12年間もの時間をかけて撮った気長な映画作りが、この映画の成し遂げた一番の偉業。たぶん今までこういう映画を撮った人はいなかったんだろうと思う。10年毎に同じ人物達のその後を描いて成功したこの監督の映画・ビフォア・シリーズの成功で出てきたアイデアであることは間違いない。…もし撮影を10年毎にせず、同じ俳優達で12年間の時間の経過を、年代毎に順番に撮っていったらどんな映画になるか…それがこの映画の趣旨。
 
 
内容は米テキサス州の普通の一家族の話。早すぎる結婚をした両親二人が早い時期に離婚。意志の強い母親は学校に行きながら2人の子供を育て、再婚・離婚を繰り返しながら教師になる(←ものすごい努力家)。意志の弱い父親は暫くフラフラした後にいつの間にか再婚して他の家族を持つ。両親とも12年の間に大人に成長している。
 
子供達2人は無邪気に日々を過ごす。もちろん両親の離婚で生活は変わるし、母親が再婚すれば新しい家族との生活が始まる。母親はまた離婚し…。
 
 
2時間45分をかけて描くアメリカの小市民の12年間。よくこんな映画が撮れたもんだと、まず監督、スタッフ、俳優さん達の12年にも渡るこのプロジェクトへの献身と、作品を完成させた意志の強さに感動する。それがこの映画の一番の偉業。
 
当然のことながらアメリカの映画業界は、この偉業に対して最大の賛辞を惜しまない。IMDB (International Movie Data Base)サイトでの評価は10点満点中8.3点。あのRotten Tomatoesでもなんと100点満点中98点!である。これ以上の最高評価があるだろうか?
 
 
実はこの映画を見終わって私は暫く感想が書けなかった。見たのは今から何ヶ月も前。何度も感想を書く機会はあっただろうに全く文章が出てこなかった。映画を見た直後、普段はすぐにうだうだと批評を始める旦那Aと私も、この映画の後は二人とも無言のままただ淡々と歩いて車に向かったと記憶している。「すごいねぇ」「うんすごいねぇ」などとボケた感想を述べただけで二人ともボーっとしていた。
 
あれから数ヶ月経ったが、長い間感想が書けなかった一番の理由は、この映画があまりにも普通の人々の普通の12年間を描写したものだったからだ…と今では思う。英語で言えばUneventful…何にも起こらないんですよ要は。
 
普通の人々の普通の日常。脚本も編集も演出も巧みなせいで全てがあまりにもリアル。リアルな普通の人々が淡々と、淡々と淡々淡々淡々淡々…と日々を送るのをほぼ3時間も見ることになる。おそらくそれがこの映画の好き嫌いの分かれる所。
 
この監督は、普通の人々の12年間をそのまんまカプセルに詰めたような映画が撮りたかったに違いない。そしてそれは誰も成し遂げなかったほどのリアリズムを生み出した。本当にすごい映画なんですよ。まさに偉業。
 
しかしその偉業そのものが、ある人々からは正反対の批評を引き出す。
 
興味があったので、この映画を低評価している感想をいくつか読んでみたけれど、ほぼ全てのアンチの人々の感想が、「つまんない、長い、だらだら、がっかりした、何も起こらない、金返せ…boring, long, slow, disappointing, nothing happens, I want my money back…」…とまあ酷い酷い(笑)。要は映画らしいドキドキするようなイベントが全く起こらないので退屈してしまったらしい。アメリカの人は正直ですね。
 
 
私はこの映画を見て良かったと思う。演技も素晴らしい、話の内容もいろいろと考えさせられるものがあったし、どこかの家族をカメラを通して12年間も見続けたようなリアルさは十分に面白かった。ただ決して見なきゃよかったとは思わないけれど、不満をネット上に書き込むアンチな人々の気持ちもわからないではない。確かに映画としては盛り上がりに欠ける。この映画は一概には傑作だと言えないものなのかもしれない。いろんな意味で。
 
そんな複雑な思いがあったのも事実で、おそらくそれも感想を長い間書けなかった理由。映画というよりもドキュメンタリーを見たような感じ。見た後は、映画の感想を語るよりも、むしろ自分の人生や知り合いの誰かの人生と照らし合わせて…うーん…と考え始める。結局映画のことよりも自分の人生や誰かのことについての会話が始まってしまう。そんな映画。そういう映画もなかなかない。
 
それにしても主役の男の子は可愛い。あの小さな子供がほぼ3時間の間に18歳の青年に成長するのを見るのは、それだけでもかなり感動する。若い頃は可愛かったパトリシア・アークエットさんがどんどん肝っ玉母さんになっていくのも凄いなと思う。見る人によってハマるツボはそれぞれだろうと思う。本当に批評の難しい映画。
 
私は見て良かったと思う。