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『La grande bellezza(2013年)/伊仏/カラー
/142分/監督:Paolo Sorrentino』
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しばらく前に鑑賞。
これはいかにもイタリア映画…フェリーニです。まんま『甘い生活』のその後の話ともとれるでしょう。(内容は全く違うけれど)一見ストーリーのない『ローマ』や『アマルコルド』的な場面場面のコラージュで構成された叙情的な雰囲気映画。いかにもフェリーニ監督へのオマージュ。それにヴィスコンティも入ってます。
ストーリーはうっすらとアウトラインがあるのみ。フワフワと雰囲気だけで時間が過ぎていく。主人公は65歳のお洒落な紳士…ちょっと前に小説を書いて成功したライター/ジャーナリストのジェプさん。彼の豪華な日常を追う。
西洋でよく言うMid Life Crisis(中年期の危機)にはちと年をとり過ぎてはいるものの、このジェプさん、何だか元気がない。昔書いたような小説が書けないと言っている。もう今さら年をとったからといって無駄に落ち込んだりはしないけれど、なんとなく調子が出ない感じでしょうか。それでも日々は過ぎていきます。
年をとって立ち止まってちょっと昔を懐かしがったりするのが、晩年のヴィスコンティの映画的でもあったりする。そんなちょっと元気の無いお洒落なおじさんが、またぼんやりと元気を取り戻すまでの豊穣な2時間。
どうしてこの映画が西洋で大変高評価なのか。その理由は映像がものすごくお洒落で綺麗だから。それに主人公の迷いが世界共通普遍の哲学的なものだからでしょうか。芸術枠では最高の素材でしょう。
主人公は現代のセレブ=上流階級。ものすご~くお金持ちです。昔一つだけ小説を書いて成功して名前もよく知られているし、友人にも有名人やお金持ちが多い。住んでるマンションも超高級=コロッセウムの目の前のバルコニー付きペントハウス…ってどんだけ高級なのよ。着ているスーツもそりゃー上質です。色も綺麗。触ると柔らかそう。何から何までお高い世界に住んでるんですこの人。
出てくる女性も濃い。日本人のゴージャス系女性を3倍くらい濃くしたような女性ばかりです。…あの美的感覚は南欧独特のものでしょう。ねっとりと蜜のように柔らかく…テラテラと光る焼いた肌に濃いメイク。彼女達の生な迫力に比べると英国の上流階級の女性なんてもっと枯れてます。とにかくイタリアのお金持ちな女性は濃厚。
しかしそんなゴージャスな風景、ゴージャスな人々、ゴージャスな家、ゴージャスなパーティーをフワフワと漂いながら、この主人公の紳士は一人溜息をつく。
要は芸術枠の映画。わざわざ手取り足取りな筋書きの説明はしてくれません。このおじさんがなんとなくふわふわと漂って、友人達と会話をし、考え…次第に自分だけの答えを見つけるまでの期間を映像化したものと思えばいいでしょうか。
こういう映画では、観客は、ただただ移り行く風景を眺めながら旅行でもしているように雰囲気を楽しみ、豪華さに溜息をつき、そして主人公と一緒にちょっとだけ人生を考えてみる。ちょっと哲学をする。
昔のフェリーニの映画にもこういうのがありましたね。筋の無い場面場面のコラージュのような映画。それに何よりもこの映画、同じフェリーニの『甘い生活』のマルチェロのその後と考えてもいい話。あの遊びほうけてダメになりかけていた小説家志望の男が、なんとか立ち直って念願の小説も書き、大成功を収め、老年期にさしかかってちょっと考え事…という風にもとれるんですよ。
監督は間違いなくフェリーニを意識しているはずだし、そのまんまフェリーニへのリスペクト映画でしょう。
この映画の美は、ローマそのものの美しさと、極端に裕福な人々の生活の豪華さに負うところが多いのですが、なによりも一番綺麗なのは思い出の中のガールフレンド。あまりにも豊かで濃厚、時に醜悪とさえ思えるほど熟れ過ぎた桃のようにねっとりと「甘い生活」に生きる老いた主人公が思い出すのは、若かった頃の自分とあまりにも美しかったガールフレンド。何があったんでしょうね…。もちろん彼女とは別れてしまったんですね。
ジェプさんは今の生活にも十分満足しているんだけど、ちょと立ち止まって思うところがあるんでしょう。友人との会話の台詞も哲学的で英語の字幕での意味も私にはかなり難しかったです。イタリア的な言い回しなんでしょうか。妙にコミカルでよく理解できないところもかなりあった(笑)。
イタリアの街は美しいですが、毎日毎日、何百年…千年以上変わることなく存在し続ける遺跡や建造物を眺めながら暮らすというのも、それだけでなんとなく精神的に重いものがあったりするのかもしれません。イタリアには何度か行ったけど、私は個人的にはイタリアというのは本当に異質な所という感じがする。とにかくいろんなものが大きくて重くて豪華。家の床が冷たい石…というのがどうも馴染まなかったりもする。でも異質だからこそ憧れるんですよね。イタリアの感性というのは日本人にはなかなか分かりづらいものじゃないか。どうなんでしょう。