このドラマ、脚本が、信じられないほど素晴らしいのだ。この本能寺にいたるまでの前二十数回、全て無駄が無い。猿のような若い頃の秀吉が一つ一つ成長していく様子、それを見守る信長、健気なおね、優しくユーモラスな母なか、そんな秀吉の家族と対照的な明智家の冷たい家庭。信長がなぜこれほどまでに光秀を嫌うのか、何度も何度も回数を重ねて二人の関係を見るにつれて納得させられるのだ。「本能寺」は避けられなかったと。あの二人は合わない。水と油なのだろう。学説では、この光秀の本当の意図が今も謎なのだそうだ。だからこそ、人物の人となりを決め、しっかりと筋立てをすれば、ここまで人のドラマとして輝く話にすることが出来る。平均視聴率30%というのには、はっきりとした理由があるのだ。
DVD完全版第弐集では、制作統括の西村与志木さんがコメントを寄せていらした。当時、暗い世相を元気付けるような大河ドラマを作りたかったこと。無名に近かった竹中さんを主役に据え、その彼が瞬く間にスターになっていくのを見たこと。この話が家族の物語であること。光秀の悲劇は、主君信長に母を事実上殺されたことから展開していったことが基本の流れとしてあったこと。いつもスタジオの外のソファに座って、竹中さんと長時間芝居について話し合ったこと。俳優、スタッフともに情熱を持ってこのドラマを作っていたことが、このドラマの核になっていると語っていらっしゃる。みんな真剣だったのだ。物を創るものにとって、ほんとうに幸せな制作現場だったのだろうと思う。
こんなドラマを見たら他の時代劇が霞んでしまう。この本能寺の変の前後だけでもDVDを買う価値があった。こういう時代劇が見たかった。過去のものではあっても、こんなドラマを作ってくださった制作の方々、熱演をされた俳優の方々には心から感謝したい。この作品はこれから何度も見直すだろうと思う。■