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2023年7月23日日曜日

映画『大草原の小さな家・初回パイロット版・旅立ち/Little House on the Prairie・Pilot (Film)』(1974):アメリカの本質を学ぶ



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『Little House on the Prairie・Pilot (Film) (1974)/米/カラー
/96m/監督:Michael Landon』
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Amazon Prime Video にて鑑賞。


ここに書いたことは全て私の個人的な意見。ドラマの感想というよりもアメリカに関する個人的な考察をメモしています。私の個人的な経験によるアメリカに対する複雑な感情を整理しようと試みた。


アメリカ人と結婚することは、「アメリカ人とは何だろう」の疑問を探求するライフワークを始めたようなものだった。

私がここで言う「アメリカ」とは東海岸から中西部のみ。それ以外の場所のことを私は知らない。

ちなみに今住むハワイは本質的に「アメリカ」だとは私は思っていない。だからここに書くことにハワイは含まれていない。ハワイはアジア寄りの違う文化圏にあると私は思う。



アメリカの北東部(首都ワシントンD.C.より北)から中西部の地域は、歴史的に長い間アメリカの土地であったことから、私は「最も伝統的なアメリカの本質」はこのエリアに存在すると思っている。白人が多数。プロテスタント多数。日曜日には教会に行きママのアップルパイを愛する地域。(フロリダやテキサスやカリフォルニアにはまたそれなりのアメリカがあるのだろうと想像する)


私が知ることになったアメリカは、昔私が日本で雑誌や映画を見て想像していたものとは違っていた。外から見るのと、中に入ってから見るのでは印象も変わってくる。

一番驚いたのは、この地域のアメリカの白人が予想以上に真面目で保守的で排他的だったこと。Xenophobic…外国、異文化を嫌う人がアメリカにはいる。白人の保守層の中には異人種や異文化を異様なくらい警戒する人々がいる。彼らは、自分たちの作った美しいネイバフッド以外は全部「敵」だと思っている…と言っても過言ではない。彼らは生真面目で勤勉、清く正しくまっとうな人々。しかし彼らの中身をよく見れば驚くほどに排他的な顔が見え隠れする。

なぜだろうと思った。アメリカとは「人種のるつぼ」で「自由の国」「アメリカンドリーム」の国ではなかったのか? …それはニューヨークやカリフォルニアの話だ。


私が以前住んだ英国の人々は、異文化も十分に受け入れているように見えた。国際的大都市ロンドンには世界中から人々が集まってくる。多くの異文化が混ざり合う都会の中では、アジア人の私も問題なくそれなりに馴染むことが出来た。英国ではあからさまな「区別」による不快感を感じることは少なかった。ロンドンの以外の地方に旅しても、むしろ異文化に興味を持ってくれる人の方が多かった。英国では喋ればなんとかなる。喋って理屈をこねれば会話が成り立つ。英国には「話せばわかる」人がかなりいた。それが心地よかった。

しかし北東部~中西部のアメリカの一部の人々は違った。会話をしてもどうもしっくりこない。壁を感じる。私の存在は彼らを緊張させる。私の登場で会話が止まる。いつまでたっても私は「アウトサイダー」のまま。 そもそもこの伝統的アメリカの人々は外国や異文化に興味を持たない人も多い。もちろん個人差はあるが「お前のことは絶対に受け入れない」と頑なで失礼な人々も少なからずいる。

そのような頑なな白人の人々を私は英国ではほとんど見たことがなかった。前述のように英国は「話せばわかる」人が多かった。外国人の私との会話を面白がる人も多くいた。彼らは「異文化」からやってきた私に興味を持ってくれた。

だからアメリカで「拒絶」に出会うたびに私は戸惑った。そして暫くして気付いた…驚いたことに彼らが拒絶する対象は私のような異人種の外国人ばかりではない。彼らの警戒心は別の地域からやってきた白人にさえ向けられていた。それらの頑なな人々は「外」に対する警戒心が強すぎて、まるで自分たちの「村」以外の存在を全否定しているようにさえ見えた。

アメリカには失礼な人々がいる。理解できないほど不愉快な人々がいる。全く残念なめぐりあわせ。会わなきゃよかった。そういう人々が存在するということを私はアメリカに関わって初めて学んだ。


そしてまた疑問を抱く。なぜだろう?なぜ彼らはそんなに排他的なのだろう?なぜ彼らは「よそ者」を異様なくらい警戒するのか?なぜそこまで「自分達だけの心地よいコミュニティーを守る」ことに必死になっているのか?

その答えのひとつがこの『大草原の小さな家・初回パイロット版・旅立ち』に見えたと思った。



★ネタバレ注意


このドラマ・シリーズは実話を元にしている。ミネソタ州の町ウォールナット・グローブでのインガルス一家の生活を元に描かれたこのドラマは、1975年開始から1983年のシーズン9まで放送された長寿ドラマ。

インガルス家の次女・ローラの残した記録によると、インガルス一家は元々住んでいたウィスコンシン州 Pepinを後にし開拓者として西に向かった。その時期は1869 年から1870年にかけて。幌馬車に乗り父親、母親、幼い女の子3人で西を目指した。そしてカンサス州の Independence 近くの荒野にたどり着き、自分たちで家を建て、1875年まで自給自足の生活を送った。このパイロット版「旅立ち」はこの時期の一家の様子を描く。


若い夫婦が幼い女の子3人を連れて幌馬車で長い旅をして荒野にたどり着き、木を切り倒し、自分達で家を建て、川から水を汲み、土地を開墾して野菜を育て、馬を飼い…。彼らはほぼ自分達だけで荒野での生活をスタートさせる。

とんでもない苦行だ。特にお母さんにとって3人の小さな娘さん達をそのような過酷な旅に連れていくのは大変辛いことだろう。お父さんは行きたいところに行きたいだけだろうけれど、お母さんは苦労ばかりだ。まさに生きるか死ぬかのサバイバル。本気のサバイバル。

そして彼らに降りかかる災難。草原が燃えることもある。必死になって彼らは家を守り生きようとする。

そしてある日インディアン(ネイティブ・アメリカン)がやってくる。元々その土地はインディアンの土地であった。当時白人入植者とインディアンは各地で戦争中。白人にとってインディアンとは大変「恐ろしい異文化/異人種の人」であり「敵」であった。最初にやってきたインディアンは言葉が通じない。夫は不在。母親は女一人で幼い3人の女の子達を守る。母親にとっては極限の恐ろしさだろうと想像できる。また別の日には「狼」が家の周りをうろつく。父と娘は家の門の前に銃を構えて家を守る。

これ。きっとこれだ。排他的なアメリカの人の本質はたぶんここにある。


アメリカとは、開拓者が荒野を切り開いてつくりあげた国。その人々の多くは欧州からやってきた真面目で勤勉なプロテスタントの人々。彼らは荒野を耕し、町を作り、周りからやってくる狼や熊などの野生動物、そしてもしかしたら襲ってくるかもしれない「恐ろしい異文化/異人種の」人々から必死に身を守りながら町を作ってきた。襲い来る「他者」を排除し戦わなければ彼らは生きていくことができなかった。

アメリカの一部の保守的な人々に、異文化に対する警戒心が今も残るのは、もしかしたら彼らのそのような歴史からくるものなのかもしれないとあらためて考えさせられた。


アメリカの人種に関する問題は彼らの歴史と密接な関係にある。
16世紀、欧州でプロテスタント(新教徒)の出現と宗教改革、続いて宗教戦争が起こると、新教徒は新天地を求め相次いでアメリカに入植した。彼らは先発のカトリックやインディアンと敵対しながら勢力を伸ばす。真面目で勤勉な彼らは、自由と幸せを求めてアメリカに移住し「異文化/異人種の」人々を攻撃して戦い土地を奪い、自分たちだけの美しい町をつくり、痩せた土地に「異文化/異人種の人々」を追いやり保留地(Reservation)に閉じ込めた。そしてその後、今度は南部から別の「異文化/異人種の」アフリカ系の人々がやってくれば、今度は街の中に線引きをして彼らをそこに閉じ込めた。

近年よく言われるsystemic racism/制度的・構造的人種差別の元はそのあたりにある。

過去の(東部~中西部の)アメリカの白人はことごとく「異なる存在」を自分たちの生活圏/縄張り/コミュニティーから排除し続けた。その理由は彼らの中にある「未知のもの」「異種のもの」に対する「恐れ」。そして彼らはその「恐れ」から銃を手に取る。


その後20世紀にアメリカは文字通り世界一の国に成長した。経済力、軍事力共に強いアメリカを作った白人社会は、力のみならず知性や能力、文化的にも自分たちが「異文化の他者」より勝ると思うようになった。彼らが開拓時代に必要に迫られて作った「人の区分け」の制度。そしてその制度と思想は人々の移動と共にアメリカ全土の白人社会に広がった。一部の人々の心は未だにその「区分け」に囚われて抜け出せずにいる。


このパイロット版「旅立ち」を見れば、彼らの「恐れ」の理由が少しは理解はできるかもしれない。理解できれば少しは納得もする。なるほどである。そしてそのように長い時間をかけて形成された彼らの排他的気質と習慣を考えれば、彼らがそのやり方を改めるにはまだまだ時間がかかるだろうと私は思う。


未知の国アメリカ。
「アメリカ人とは何だろう」の探求は続く。


ドラマのシリーズは子供の頃に楽しく見ていたが、今になって「アメリカを知る資料」として見ることになるとは考えもしなかった。これはテレビ映画/ドラマとしても良作です。何度もドキドキさせられるし、開拓者達の苦悩と頑張りは十分に理解できる。歴史的なドラマとしても大変興味深い作品。アメリカ人の本質を色々と考えさせられた。