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2023年7月26日水曜日

NHK NHK BSプレミアム『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』全10話・感想



TV Japanにて。日本での放送は2023年5月14日から同年7月16日まで。


すごくいいドラマでした。回を追うごとにしみじみとこの家族が好きになった。登場人物全員に愛着が沸いた。愛が溢れるドラマ。もっともっと彼らを見ていたい。名シーンの数々に泣いた。ありがとうございました。


最初は正直見続けられるかなと思った。ママひとみさんの哀しい表情を見ていて哀しくなった。七実ちゃんのハードモードの人生を見るのが辛い。見ているのが辛すぎて全部見れなくなるかもしれないと思っていた。

それから演出とカメラワークが実験的?なのだろうか、最初はなかなか馴染めなかった。時間が前後してポンポン飛ぶ。人物達の感情も、楽しく笑ったと思ったら急に深刻になる…と思うとまた笑っている。幻のパパがいるかと思えば、リアルでシリアスな重い場面。人物に迫る生々しいカメラワーク。雰囲気がコロコロ変わって混乱する。日々はケオスのように混乱していて掴みどころがない。七実が不思議なほど淡々としているのもすぐには理解できなかった。コメディかシリアスなのか人情ものなのか、そのとっ散らかった雰囲気に最初は戸惑った。


そのケオスな雰囲気こそがこのドラマの素晴らしさでした。


その実験的な演出にも回を重ねるごとに馴染んでいった。まさに人の日常とは、そして人の心の動きとは、整理整頓されていないケオスのようなもの。岸本家の、ものすごくリアルな整理整頓されていない日常。生々しいカメラワークがそんな日常を隅々まで捉える。このケオスな演出に最後は感動さえした。このドラマはきっと傑作。素晴らしい台詞。名場面も数えきれない。

気持ちを抑え気丈に振舞うことが習慣になった七実ちゃんが笑えば私も嬉しい。ママと共に泣く。草太君のいつも変わらない優しさに微笑み、パパの愛情に涙する。そしてお婆ちゃんのユーモアに笑い彼女の娘ひとみへの愛に泣く。


このドラマも家族を描いたドラマ。今から2週間前に英国発の家族のドラマ『ブリーダーズ 最愛で憎い宝物/Breeders』の感想で「家族は色んな事があって時には不協和音も聞こえてくるけれど、それでも家族は前に進む。それでいいのだろう」とここに書いた。このドラマも家族が前に進んでいく話。

ここのところ、(後悔ではないけれど)どうも家族(子供)を持たなかった私の今後の人生がこれからどうなっていくのだろうと考えることが多く、だから英国の『ブリーダーズ』もこの『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』も、家族のドラマというだけでしみじみと心に沁みる。

うらやましい。家族っていいなと思う。


★ネタバレ注意


実は前半は(前述のように)ドラマにすぐ馴染めなくて、録画を保存せずに見ていた。しかし第6話目で「ん?いいかも」と思って録画を残すようになった。先週最終話を見終わり、ちょっと見直そうかと先ほど第6話目を見たのだけれど、2回目に見るともっと沁みる。すごくいい。うわ~これは第1話から録画を残しておけばよかったと思った。

(というわけで第5話までは録画がないので細かい内容は覚えていないのだけれど)第6話は七実ちゃんが作家になる話。そこで出てきた「ALL WRITE」の編集長の小野寺・甘栗・柊司(林遣都)の面白さ。そして彼の女性スタッフが甘栗をガラス瓶に投げ入れる場面で心が動いた笑。変な上司あるある。面白さにリズムが出てきた。そして瞬く間に七実ちゃんは作家先生になる。遊園地での「お婆さんは国の宝です」そうだ。そのとおり。

このドラマは時々ドキッとする台詞が出てくる。


岸本七実
最初七実ちゃんが感情を抑えていることがわからずに戸惑ったのだけれど、彼女は強い。淡々と何事にも動じていないように振舞う。常にユーモアを忘れず、家族を思いやって前を向いて歩いている。彼女を心配し、はらはらしながら、それでも彼女が強く立つ姿を見て、勇気をもらい、頭を下げたくなった。あの淡々とした様子がリアル。本当はいっぱいいっぱいでも感情を抑えているのだろう。彼女は大人なのだ。一度彼女はお風呂で泣いていた。第6話で自室で横に座るパパと話す場面で、七実ちゃんが少しずつ悲しみの表情になって泣く。河合優実さんは素晴らしい女優さん。

大川芳子
お婆ちゃん芳子さんの愛、愛、愛。ママひとみが子供の頃、「ひとみちゃん」に大きな卵焼きを焼いてくれたお婆ちゃん。明るいお婆ちゃん。娘を心から愛しているお婆ちゃん。「ご飯食べる?」と娘を常に気遣う母親。美保純さんがユーモラスで温かい。

岸本耕助
目に沢山の愛を湛えたパパ。パパは常に家族と共にいる。幻のパパが出てくるたびに嬉しくなる。草太君といつもハグしたりジャンプしたりする様子に心が温かくなる。そしてパパは七実ちゃんが作家になるきっかけになった。パパはいつも皆を見守っている。錦戸亮さんの表情に泣いた。

岸本草太
そして吉田葵さん演じる草太くん。優しい草太くん。言葉が丁寧なのもいい。彼がパパと顔を見合わせて笑顔になるのもまた嬉しい。彼にはパパが見えるのね。草太くんは第9話で自立する。寮(?)に入った初日の夜、一人寮を出て家に向かって歩き始める。畑の間の道を歩けばパパが隣を歩く。草太くんが「間違ってない?」と聞けば「間違ってないで…草太はずっとおうてる…」。そのシーンは草太くんが生まれた時、パパが病院から出て「大丈夫」と言いながら同じ道を歩いた姿に重なる。草太くんが「ありがとう」と言ったところでパパが消える。自立した瞬間。草太くんはたった一人、空が明るくなり始めた早朝の道を朝日に向かって歩き続ける。とても美しいシーン。感動しました。

岸本ひとみ
そしてママひとみさん。坂井真紀さんが超一流の女優さんだと知った。すごい役者さん。このドラマで、彼女の芝居に何度も心揺さぶられた。若いママの表情、小さい草太くんを慰める優しいママ、そして娘七実を明るく応援するママ、突然自由を失って病院で泣く様子。車を運転して自立する強さ。お婆ちゃんのことを知らされて顔を手で覆って泣く様子。第8話で、母芳子(お婆ちゃん)に「ありがとうね」と伝える娘の顔。すると芳子さんは「なにが?」と問う。その後のひとみさんの表情。名場面。 第9話で生まれたばかりの草太くんを抱っこする優しいママの顔。その後表情が変わり不安と心配の表情が悲しみに変わって大粒の涙。草太くんの髪をカットする母の顔。寮に向かう草太くんを追って思わず車から落ちそうになる。その後の草太くんを見上げる表情と涙。このママひとみさんの様子に何度も息を呑んだ。坂井さんは超一流。こんなにすごい役者さんの芝居は久しぶりに見た。第9話の母親の表情が本当にすごい。ドラマ全話、彼女の芝居で何度も泣きそうになった。


家族以外の登場人物達も皆素晴らしい。出てくる人が皆いい人。特に草太くんをめぐる人々がいい人ばかり。コンビニでもカフェでも人物達が皆いい人。社会に愛がある。

このドラマには愛があふれる。

家族に愛があふれる。祖母も母親も娘も息子も、父親も、皆全員が愛を表現する。それがすごいのですよ。愛がどんどん溢れる。だから名場面が多い。

第8話の芳子さんと娘ひとみさんのシーンでは私の母のことを思い出した。40歳も過ぎた娘をいつまでも子ども扱いする母親。うちも同じだった。母が懐かしい。


少しアート風でケオスな演出は…今まであまり見たことのないドラマだと思った。たぶん実験的な見せ方だから最初は戸惑ったけれど、回を増すに連れてどんどん引き込まれた。あのケオスが現実のリアルさを捉えているのだろう。巧みな演出。感情を写しとるカメラワーク。すばらしい脚本。そして一流の役者さん達。素晴らしいドラマ。そしてこの家族が大好きになった。

家族の話はいい。


さきほど第6話を見て面白かったので、これから第10話まで見直そうと思います。また彼らに会いたい。ありがとうございました。