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2023年3月14日火曜日

NHK BSプレミアム『我らがパラダイス』全10話・感想



TV Japanにて。日本での放送は2023年1月8日から3月12日まで。NHK BSプレミアム。全10話。

原作 林真理子さん。日本の高齢化社会をテーマにした小説とそのドラマ。老人介護のテーマをコメディ調で描く…と書いていいものだろうか。



★ネタバレ注意


俳優さん達は皆うまい方々。だからドラマを見続けた。それぞれの回の個別のストーリーにもそれぞれ考えさせられる内容はある。しかしこのドラマのメインテーマ「とりかえ」…があまりにも荒唐無稽。でたらめですね。ああいうことは、実際にはまず無理。このドラマを心から楽しめるかどうかは、あの「とりかえ」のアイデアがストーリーの要として受け入れられるかどうか。

私は「これは現実的ではないから、たぶんファンタジー系の話と見ればいいか」と頭を切り替えた。高級高齢者施設のセッティングにしても、「とりかえ」の話にしても、真面目に現実の高齢者社会を扱ったドラマではないのだろうと思った。全体にあまり現実味がないから、実は深刻な状況もあまり重苦しくならずにコメディ調で描ける…そのような軽いドラマだと見た。

この「とりかえ」が犯罪であることや、(せめてフィクションとして受け入れたとしても)不快だと感じるならもうこのドラマを楽しむことはできない。あくまでもこれはファンタジー。むしろ介護に関わらない若い世代なら現実味のないフィクションとしてOKなのかも。


メインのテーマ「とりかえ」以外の話は考えさせられる内容もあった。それらがよかったのも最後まで見続けた理由。

特に細川邦子(堀内敬子)の話は深刻。認知症の始まった父親を心配する邦子。その兄と兄嫁は父の財産を受け取りながらも父の世話を拒否、結果邦子は追い詰められる。そこから「とりかえ」に関わることになる。

「とりかえ」のアイデアを思いついたのは田代朝子(木村佳乃)。

そしてシングルの丹羽さつき(高岡早紀)。彼女は自分が勤める高級高齢者施設の入居者にプロポーズされる。…さてこのさつきの結婚話に現実味があるのかどうかはまた別の話。誰かに愛されてプロポーズされるのはいいけれど年齢差の問題はどうしても避けがたい。あの立場でさつきがYESを言うことが信じられないのは私だけではないと思う。


最終回で「とりかえ」られていた裕福な老女が亡くなる。その後の雑さも気になる。そもそも高齢者をお世話するナースでありながら朝子はその可能性を事前に考えられなかったのか?そして施設のマネージャーが世間体を優先したことにより、その後その「犯罪」が明るみに出ることもない。そこもますますファンタジー調。現実味はない。

最後に6回の医療施設に老人たちが集まって騒ぐのも、なぜそうなったのか説明不足。そしてその後彼らはどうなったのか?あの老人達は皆施設を出たのだろうか?まさか。 そして最後は、土地持ちの癌患者の医者岡田恭太郎(渡辺正行)が「みんなで集まれるといいね」と夢だけを朝子に語ってドラマが終わってしまった。

雑な終わり方。何も解決していないし、邦子の父親のその後や、朝子の母のその後、そして高級高齢者施設を出たさつきと高齢の夫・遠藤仁志(油井昌由樹)はどうなるのか。さつきは母親も高齢者で、いずれ母親のお世話も必要になってくると考えれば、シングルのさつきはいったいどうなる。そのあたり…メインの人物たちのその後がほとんど描かれていないのも中途半端。

結局、深刻な問題をコメディ調に描くだけで何の結末にも至らないまま突然終わってしまった印象。驚きでもあり残念でもあり。


テーマが大きすぎるのですよね。邦子の家の問題はひとつのドラマとしても成り立つようなものだし、さつきの高齢者との結婚ももっと納得のできる描き方もあっただろう。朝子の過去の不倫も不要。なんだか…気持ちのいい落としどころがほとんどないドラマだと感じた。

俳優さん達は素晴らしいのに話が雑でもったいない。

高齢化社会のテーマそのものは今日本が一番考えていくべき話で、もっと丁寧に描けばいいのにと思った。笑いごとにするようなものでもないと思う。…とは言え個々のエピソードでは確かに色々と考えさせられたけれど。

俳優さんは皆うまい方々。特に丹羽さつきの母ヨシ子を演じた白川和子さんの演技が素晴らしい。夫を亡くし、悲しみと寂しさと疲労で弱々しくなっている高齢の女性がものすごくリアル。あまりにも疲れているから娘に問われても「そうだっけ?」と弱々しく答える様子がその状況にいる高齢の女性そのものでした。


林真理子さんがこの話で焦点を当てたかったのは介護する側の視点なのでしょう。介護する側…今50代、60代の(主に)女性たちが社会の中でどのように追い詰められているのかを描こうとしたのだろうと思う。

その解決策があまりにも荒唐無稽なので、何の参考にもならないファンタジーになってしまったけれど、この問題はもっと取り上げられてもいい大切な問題だと思う。