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2021年3月18日木曜日

映画『若草の頃/Meet Me in St. Louis』(1944):豪華なおとぎ話・輝くジュディさん





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『Meet Me in St. Louis(1944年)/米/カラー
/113分/監督:Vincente Minnelli』
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去年の年末にテレビを録画。年末に1度見て、昨日再度鑑賞。1944年の映画。ジュディ・ガーランド主演のクラシック。


1903年のミズーリ州セントルイスの家族=スミス家の1年を、ティーンの次女のエスター(ジュディ・ガーランド)を中心に描く。登場人物はエスターと3姉妹、兄、弁護士の父、主婦の母、祖父、家政婦、そして隣人のジョンと数名の町の人々。

裕福な中流階級の家族の1年を4つのパートに分け、それぞれの季節のシーンを描いて構成。特に大きな事件もなく、ティーンの女の子の恋話や、隣人とのやりとり、末っ子のハロウィーンの冒険、クリスマスの舞踏会などの家族の日常がきらびやかに描かれる。


フェアリーテールですねこれは。おとぎ話。時代は1903年。お父さんは弁護士。お城のような豪邸に住む美しい家族。5人の子供達と両親に祖父、そこに住み込みの家政婦を加えて9人がこの豪邸に住んでいる。さて1903年当時、現実にセントルイス市で弁護士の家族がこれだけ豊かな生活が出来たのだろうかと多少疑問には思うけれど、いやそんなリアリティは求められていないのですよね。

1944年と言えば第二次世界大戦の真っ只中。この映画は、戦争で空気も重苦しかった時代に、アメリカの国民が少しでも現実を忘れて…ありえないほど美しくゴージャスな家族の日常を描いた…フェアリーテール/おとぎ話を楽しめるようにと制作されたのだろう。華やかな美しい色彩に。美しい人々、美しい調度品、カラフルな衣装、何から何までが美しい贅沢なファミリー映画。本当の意味での映画の魔法…現実逃避のための映画だったのだろうと思った。


★ネタバレ注意

主演のジュディー・ガーランドは当時22歳。すでに大女優の風格。この映画で彼女が演じているのは16歳ぐらいの女の子。彼女は小柄で身長が151cmなこともあって実際可愛らしいのだけれど、時々ふと大人の顔になる。少女のようでありながら30歳を過ぎた大人の女にも見える。不思議なカリスマ。

ジュディさんは声が特殊。話す声は可愛いのに、歌い始めると急に成熟した大人の女の声になる。不思議です。特殊。彼女のカリスマの真似は簡単には出来ないと思う。本当に特殊なお方。

ジュディさんは1939年の『オズの魔法使い』で17歳でスターになり、その後も主演で何本もアイドル映画を撮っていて、この映画では既に大女優の佇まい。表情豊か。コミカルな演技も可愛い。

隣人のジョンに家のパーティーで始めて会うシーン。実は以前からず~っと彼に片思いしていたのに、初めて兄に紹介されると「お名前がわかりませんでしたわ」「あらこちらにお住まい?」などととぼける。
トロリーにジョンが来ないからとふてくされてるのに、ジョンが遅れてやってきたと知ると嬉しさで顔が輝き始める。散々嬉しそうに歌っていたのに、ジョンが隣に座れば微妙に困惑した顔。
ハロウィーンの日、誤解をしてジョンの家に殴りこみ。いきなりパンチを数発。その後の初めてのキスの後、うちに帰ってきてからの夢心地の表情。時々にやにやして心もそぞろ。目が泳ぐのがおかしい。
そしてクリスマスの舞踏会の前、姉との寝室のシーン。コルセットを締めた後の表情。コメディエンヌなのね。本当に表情豊か。
最後のジョンとの戸外でのシーン。ジュディさんの横顔が美しい。
そして妹と窓辺で歌う「Have Yourself a Merry Little Christmas」。その目が見つめる先に何があるのだろうと思わせられる独特の表情。22歳とは思えない。このシーンを見ると涙が出ます。

彼女は22歳にして大女優。この映画の監督はヴィンセント・ミネリ。1945年にジュディさんは彼と結婚。生まれた娘さんがライザ・ミネリ。この映画の頃に、二人が恋仲になっていたのかどうかはわからないけれど、ミネリ氏がジュディさんを一番綺麗に撮ろうとしていたのはよくわかる。ジュディさんは輝いてます。


それにしてもこの映画が1944年に撮られたという事実に驚く。カラーで大変美しい。衣装デザインこそ(1903年当時を再現して)古いのだろうけれど、出てくる人々の様子は現代とそれほど変わらない。言葉づかいも少し丁寧だけれど、今とそれほど違っているようにも思えない。表情豊かに輝くエスター、妹のトゥーティはお転婆だし、声が大きく元気のいいお父さん、おすましの美人の姉ローズや、穏やかな隣人のジョンの佇まいも、それほど古く感じないのは不思議。特にお爺ちゃんの紳士ぶりとその言葉づかいのモダンで自然な感じは…例えば彼がこの21世紀に旦那Aの家族に紛れていても不自然に感じないだろうと思うほど。
 

このお爺ちゃんを演じたハリー・ダヴェンポートさんは、1944年当時は78歳。彼の生まれた年は1866年! 日本人にわかりやすく言うなら1867年は「大政奉還」の年。なんと彼は日本の江戸時代に生まれたお方なのですよ。びっくり。

そのお爺ちゃんは、エスターが「クリスマスの舞踏会に行けない」と泣けば「私がつれていってあげよう」と言う…ティーンの孫娘を舞踏会に連れて行く素敵なお爺ちゃん。舞踏会の会場で美人のルシルさんに「お爺様大好き」と言われれば「若者は何時間でもあなたとお話ししたいと思いますよ」とスマートにこなし、またエスターが残念な男の子達とのダンスに疲れたら、かっこよく助け出してくれる。そして会場に現れた隣人ジョンを見つければ、踊りながらエスターをジョンの元に届ける。かっこいい紳士的なお爺ちゃん。最高。

スミス家のコミカルで優しいお爺ちゃん…かっこいい紳士的なお爺ちゃんは日本の江戸時代生まれ。その事実に驚く。ああ…この映画は歴史上の時代の人々をカラーの映像で残している映画でもあるのですね。


そういえばスミス家の屋内のライトはガス灯。最後の万国博覧会でのライトアップされた建物を皆で見て喜ぶシーンは、電気のライトが珍しかったからだそうだ。


この映画を…ひねりも毒も何もない、砂糖菓子のような綺麗ごとばかりの昔のハリウッド映画…だと捉えるのなら、それもまた事実だろう。この映画は…例えば70年代の映画のように…人の心理をリアルに掘り下げた映画でもなければ現実を描いた映画でもない。ただの夢物語。しかしその夢物語の後ろには、様々なストーリーがある。「美しい日常を描いた映画」は大戦中の人々の「現実逃避の映画」でもあった。

ほぼ2時間の大作。豪華絢爛。美しく上手い俳優たち。軽快な歌の数々。今の時代にも違和感のないユーモアと家族愛。どれをとってもこの映画が、今から77年も前に制作されたとは思えない。ものすごい偉業だと思います。

昔のハリウッドって本当にすごかったんだね…と思わずにはいられない。そんな映画。そしてその主演で輝く22歳の大女優、ジュディ・ガーランドさん。溜息。すごい映画です。