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2013年1月8日火曜日

映画『八日目の蝉』:傷ついた女性達

 
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『八日目の蝉(2011年)日本/カラー/147分/
監督: 成島出
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録画していたものを鑑賞。ずいぶん前にTVドラマのVer.が放送されていて途中から見ていたので話は知っている。原作は角田光代さん。私はこの人の大ファンだ。原作はまだ読んでいない。ちょっと重い内容だからだ。そんな状態で観賞。

泣きました。1度目に泣き、2度目にもっと泣いた。


この映画に出てくる女性達は全員が心に傷を負っている。子供を誘拐された実母恵津子。誘拐した育ての母希和子。成人したその子供恵理菜)。希和子が身を寄せる「天使の家」の女性達も全員が心に傷を負っている。希和子の友人久美(エステル)。恵理菜(薫)の天使の家での幼馴染の草。

本来なら誘拐犯の希和子に感情移入するべきではないのに、この永作博美さん演じる希和子に心を寄せずにはいられない。赤ちゃんを誘拐してきて、ホテルの部屋で泣き叫ぶ赤ん坊をあやしながら泣く姿からこちらももらい泣き。希和子の後悔、それでも薫と一緒の時のかけがえの無い幸せ。ただそれが永遠には続かない事を知っている悲しみ。そんな幾重にも重なった心。希和子は(それぞれも心に傷を負った)心優しい人々に助けられながら薫との別れの最後の瞬間まで暖かく優しい母であり続ける。どこまでも子供を気遣う母そのものだ。

一方、実母恵津子は子供を誘拐されたと同時に、母親になる為の大切な時間を盗まれてしまったかのよう。本来なら帰ってきてくれた子供に優しく寄り添うものだろうに、子供が自分の思い通りにならないと(自分を母として愛してくれないと)子供を責めて泣き叫ぶ。誘拐犯を恋しがる幼い娘に我慢が出来ないのだ。彼女は母親になる機会も意志も永遠に失ってしまったのだろうか。彼女は深く傷つき過ぎた。

そのように恵理菜(薫)が連れ戻されて帰った家庭は崩壊寸前。直ぐに機嫌を損ねる実母恵津子の顔色を伺いながら育った恵理菜は、4歳までの楽しかった時間を口にすることさえ許されない。口にすれば、実母の逆鱗に触れる。そうやって過去の記憶に蓋をして4歳以降、暖かい家庭を知ることなく育った。


成人し、奇しくも妻子ある男性の子供を宿した恵理菜は口にする「子供の育て方なんて分からない。母親になんてなれる訳がない。」

そんな彼女がジャーナリストの草(彼女も特殊な生い立ちによって傷ついている)とともに母希和子と過ごした過去を尋ねて旅に出る。

母希和子と過ごしたそれぞれの場所を訪ね、最後の土地での記憶を思い出すことで、娘恵理菜(薫)は失われた感情を次第に取り戻す。「4歳で別れた母希和子は最後の瞬間まで自分を愛してくれていたのだ」と思い起こすことで恵理菜の強張っていた心が溶け始める。「この島に帰りたかった。ママ(希和子)に会いたかった…。」


大人が犯した罪。一番傷ついたのは小さかった恵理菜(薫)。唯一確実に愛してくれたのは自分を誘拐した犯人だった。実母恵津子の機嫌を損ねないように長い間意識的にその記憶を消そうとした。それでも過去の記憶は消えていなかった。20年前の微かに残る優しかった母希和子の記憶。愛された記憶を呼び覚ますことで、恵理菜は前を向いて歩けるようになる。愛の力は大きい。過去に受け取った愛の記憶が彼女の中の愛を呼び覚ます。


静かな映画です。登場するのは皆傷ついた女性達。希和子は自分のしてしまった事を悔いながらも、母になる(育てる)喜びから傷を癒される。実母恵津子は子供を奪われた心の傷から立ち直れずにいる。天使の家の女性達は皆静かに傷を隠して生きている。若い恵理菜と千草は傷を癒す旅に出る。

(母)希和子と恵理菜(薫)の暮らした島の風景はとても美しい。はっとした場面が何度もあった。

それぞれの女優さんたちが素晴らしい。永作博美さんはすごい女優さん。希和子の悔いと哀しみと喜び、複雑な感情の入り混じった表情だけで何度も泣けた。井上真央 さん、森口瑶子さんも素晴らしい。それにいつも元気いっぱいな小池栄子さんの変わりようにも驚いた。司会などでお見かけすることのほうが多くて、女優さんをなさっているのはあまり見ていないのだが、役柄の印象が全然違う。この女優さんはいろんな引き出しがありそう。


素晴らしい映画。とてつもなく哀しくて苦しいのに、時々雲間にほんのりと光が射すような暖かさがある。たくさんの傷ついた女性達と一緒に涙を流した後に雲間の光を確認するような映画。

それにしても原作の角田さんはいつもすごいと思う。時々心をえぐられるような話をお書きになる。そろそろ積読していた原作を開いてみようかな…。