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2021年12月6日月曜日

米ドラマFX Networks『Impeachment: American Crime Story』(2021) シーズン3:事実は小説よりも奇なり・異様な政治茶番と女性達の怒り






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『Impeachment: American Crime Story』 (2021) 
TV Series-Season 3/米/カラー
/約42分・全10話/
制作:Scott Alexander, Larry Karaszewski, Sarah Burgess, Ryan Murphy 』
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久しぶりに気合の入ったドラマを見た。面白かった。

有名な「クリントン大統領のセックス・スキャンダル」…一般的にそう呼ばれている事件。

まずこのスキャンダルは、おそらく真面目なアメリカ国民にとっては「恥」なのだろう。現職の大統領が若い娘と不倫をし、その関係の詳細を白日の下に晒され…。普通の真面目なアメリカの中流階級の市民にとってこの事件は、もう二度と話題にしたくない「アメリカの恥」なのかもしれないと外国人の私は思う。アメリカの振り返りたくない恥…だからこのドラマはアメリカの真面目な市民にとって、公正な評価は難しいのではないか。

事実は小説よりも奇なり

まさにその通り。一般的にこの事件がそう呼ばれるように…上の文でも「セックス・スキャンダル」と書いたが、この一連のドタバタは、実は「クリントンの浮気」そのものが問題ではない…ということを私はこのドラマで初めて知った笑。



この事件がメディアに出るようになった頃、私は英国に移住してまだ数年目で、事の内容を詳しく知ることができなかった。メディアのこの事柄に関する記事もほとんど読まなかったし、たとえ読んだとしても当時の私の英語力では理解できなかっただろうと思う。ただ人々の会話には上っていたので多少の事柄は聞いていたが、私はてっきりクリントン氏が若い女の子と不倫をしたから大問題なのだろうと誤解していた。そして「アメリカの大統領は不倫も出来ないのか。不倫ぐらいでそんなにおおごとになるなんて、アメリカって厳しいね」などと、間違った解釈をしていた。

時の世界一の権力者が小娘と不倫をするだけで大問題なの????



実際の問題とは…、

現大統領のクリントン氏が、過去の女性(ポーラ・ジョーンズ)のセクハラ問題での裁判で、証人として呼ばれた別の女性(モニカ・ルインスキー)との現行の関係を問われ、「やっていない」と宣誓供述で嘘を述べ、「いや嘘をついているだろう」と問われれば、「その行為はジョーンズとの裁判で定義された性行為の定義には入らない」などと、みっともなくさんざん屁理屈をこねたあげく、結局…決定的な証拠(ドレス)を提出されて、その関係を認め司法妨害罪偽証罪(法律により宣誓した証人が虚偽の陳述(供述)をすること)…を問われ、下院で弾劾/Impeachment が実施されるまでに至った事件。このドラマはその経過を再現したもの。ちなみにクリントン氏は上院で無罪になり大統領の職を満期まで務めた。



問題は大統領の偽証罪だった。う~ん…それにしても厳しいな。宣誓ををしたら何事も絶対に事実を言わねばならない、嘘の供述をしたら逮捕されて刑務所行きになる…ということも、私は恥ずかしながら初めて知った。偽証罪は大問題で、それを現職の大統領がやった。それが問題。


ここで一応書いておかねばならぬだろう

大統領の「不倫」は犯罪ではない


ただクリントン氏の運が悪かったのは、その偽証罪を問われた内容が…若い女性とのお楽しみだった…という。かっこわるい笑。 



いや…そもそもおかしいのは、大統領の偽証罪を問う内容が、例えば大統領が企業から賄賂を受け取ったとか、どこかの国と裏取引をしていたとか…「政治家らしい嘘と罪」を問うためのものであるのならともかく、若い女の子との火遊びで「やったのか、やらなかったのか」の問いで、そんなどうでもいいことを暴くために、議会に雇われた独立検察官のチームが、国民の税金($52 million/約52億円~60億円くらい)を使い、長い時間(4年間)をかけ、FBI捜査官まで使ってとことん調べつくし、そして調べ出た結果(大統領と女性の性行為の生々しい詳細)を独立検察官のオフィスと議会が、公式なリポートとして誇らしげに世間に晒してしまう。

それがいかに

異常

なことだったのか。それがよくわかるドラマ。


クリントン氏にフェアであるように一応書いておこう。彼は非常に頭のいい人で、政治家としてもやり手のできる男だったと聞いている。もう私達には十分わかっていることだけれど…過去のどの大統領にも完璧な人物はいない。どの大統領も長所も短所もある皆と同じ人間なのだ。誠実であり過ぎれば政治力の弱い大統領かもしれないし、カリスマに溢れて強そうな大統領は、はたして危険な独裁者にもなりうる人物かもしれない。クリントン氏は歴代の大統領と比べても頭脳派の…悪くない大統領だったと聞いている。

しかしながらそんな彼は…どうしようもないほど女性にだらしがなかったのですよね。彼は心の底から女性にちやほやされるのが好きで、ご本人もチャーミングでカリスマに溢れ女性の扱いがうまいからモテて、病的なほどに女性といちゃいちゃするのがやめられない。英雄色を好む…彼もまた過去の時代に存在した人物で、まぁなんと言うか…今の常識だけでは一方的に彼をいいとも悪いとも言えないのかもしれないとも思う。ただ奥さんは大変。それにこの事件での彼はとにかくみっともなかった



このクリントンのスキャンダルの一連の大騒ぎのすごさは、
個人の小さな声から発した問題が、猛烈なスピードで追う者(独立検察官)と逃げる者(大統領)のエゴの戦い、同時にそれがアメリカの政治の戦いに変化していったことだろうか。

…信じられないようなドタバタ。…ありえないほどの偶然と、登場人物達それぞれの行動の意図しなかった結末。そしてまた、事を不必要に「おおごと」にしようとした「外野の者達(メディア)」にとっては…これ以上ありえないほど都合のいいタイミングが重なり続けて、結果…どこまでも大きく大きく、まるでバケモノのように膨れ上がった「大統領の浮気問題」。その肝心の大統領はみっともなくいい訳をして逃げ回り、周りの人々を傷つけ、失望させ、恥を晒し続けたという。

とんでもなく馬鹿げた茶番

まさに事実は小説よりも奇なり。



悪いのは、政治の派閥争い…現職の大統領を引き摺り下ろそうとする政敵(共和党)、その周りに群がるハイエナ達…弁護士、煽るメディア、権利活動家。そして無慈悲に女性達の尊厳を踏みにじり続ける「力のある者達」…独立検察官のチーム…のやり方と手口。

いつしか現職大統領の偽証罪を証明する戦いが、
大統領と独立検察官の醜いエゴの張り合い、になってくる。

どちらが勝つのか?

クリントンか、ケン・スターか?

そんなくだらない男の意地の張り合いに勝つために、独立検察官ケン・スターとそのチームは、リンダの録音テープとモニカの証言による「大統領と若い娘のお楽しみの内容」を事細かに調べつくし、それを白日の下に晒し晒し晒しつくす。そこに政敵とメディアのハイエナ達が群がって騒ぎ立てる。酷い。ひどい。本当にひどい。

私がこのドラマで一番の怒りを感じたのはケン・スターとそのチーム。国民の税金を使って何をやっているのだ。 それにそもそも彼等がこのルインスキーの件の前に調査をしていたビンス・フォスターの死の件や、ホワイトウォーター疑惑はどうなったのだろう?

そして自分の保身と、なによりも「奥さんが怖い」ために、嘘をつき続けたみっともない大統領ビル・クリントン。もし彼が最初に「私がやりました。ごめんなさい」と言っていれば、モニカやリンダやヒラリーはあれほど苦しむこともなかっただろうに。(それが可能だったのかどうか私にはよくわからないけれど)



そして傷ついた女性達

それがこのシーズン3の主題だろうか。

夫の欲により表舞台に引っ張り出され、彼女の「個人的な過去」が国を引っくり返すほどの大問題の引き金となった…ポーラ・ジョーンズ
(一般的に見て)大統領を陥れた浮気の相手/または権力者に利用された犠牲者。しかし事実は、大統領にただただ一途に恋をしていた若い女性…モニカ・ルインスキー
犯罪ギリギリの行動(会話の録音)で友人を売った(裏切り者)リンダ・トリップ。しかし彼女にも、権力者の悪を暴き正したい/不誠実な男を罰したい…という彼女なりの正義感があった。手段は最悪だったけれど
夫に裏切られ、激昂し、追いつめられ、それでも夫をサポートし続けた強いヒラリー・クリントン


このドラマをよく見てそれぞれの状況を理解すれば、これら4人の女性達を一方的に非難する者は少ないのではないかと思う。

このドラマの目的は、このドラマに登場する実在の女性達の苦難を克明に描くこと。彼女達は男達の抗争と政治の派閥争いの道具になり、メディアに翻弄、利用され、世間に傷つけられた。彼女達は全員が犠牲者であり、そこから立ち上がったサバイバー達でもある。このドラマは女性のためのドラマなのだろうと私は受け取った。


これほど事細かに、たった25年ほど前の事件を再現して、全体にバランスよく、当事者の女性達を誰も一面的な悪者には描かない。それぞれの女性達の立場と心を描き、視聴者が納得できるそれぞれの言い分を公正に描く。悪役とされるリンダ・トリップにさえ、彼女なりの正当な言い分がある。…誰も悪者ではない。その描き方の上手さに驚いた。

起こったことの全てをドラマで再現して善悪の判断は視聴者に委ねる。それが主旨だろう。しっかり作りこんで最初から最後まで手を抜かない…制作者側の熱意を感じる。



そしてだからこそ度々描かれる女性達の怒り(見事な脚本)。

女性達の沢山の怒り。沢山の怒鳴り声。絶叫。 第8話のヒラリーの激昂に大きな拍手をし、第9話のモニカの涙に共に泣き、第10話で明かされるリンダの正義に納得し、そして9話のポーラの夫への怒りに共にこぶしを振り上げる。

…そのような女性達の怒りの描写には、このドラマのもうひとつの主旨……男社会の中での女性の扱われ方…女性の尊厳のあり方について考えさせる意図もうかがえる。女性達が怒りの声を上げる…このドラマは今の #MeToo の時代の女性の目線を反映させたドラマでもありますね。今だから描けたドラマ。

私がこのドラマを見て、当時の権力者やメディア、公的オーソリティー全般のやり方に疑問を持ち、反感を覚え、また政治的な戦いに(都合のいいコマとして意図せずに)巻き込まれた女性達と共に泣き、怒り、その苦難に心を寄せるのであれば、おそらくこのドラマの制作の意図は達成されたのではないかと思う。


全編に渡って、法律関連の言葉は難しいし、一度見ただけではわかり辛かったが、ipadで言葉を調べながらゆっくりと二回目を見直したらますますストーリーに引き込まれた。ドラマとして最高に面白かった。こんなに必死になって理解しようとしたドラマは珍しいかも。


全体の構成は、

第1話 の冒頭に…1998年、モニカ・ルインスキーがFBIエージェントに拘束されるシーン。その後は、過去からそこに至るまでの経過が第6話まで細かに再現
第6話 で第1話の冒頭のオープニングをリピート、ストーリーはそこから面白くなる
第8話 ではクリントン氏とケン・スター独立検察官が対峙。夫ビルに怒りを爆発させるヒラリーに大きな拍手! ←このエピソードで傑作決定
第9話 のモニカ・ルインスキーの大陪審での証言。モニカ役のBeanie Feldsteinさん…彼女はいい女優さん。そしてポーラー・ジョーンズも夫に怒りを爆発させる
第10話 特別検察庁がスター・リポートを世間に晒す。そして下院での大統領の弾劾。それぞれの女性達のその後。リンダの正義感の理由

6話までは事件までの経過。見所は6話から。ストーリーがどんどんエスカレートしていく。


4人の女優さんたちが本当に素晴らしい。ものすごい力技。彼女達を見るだけでもこのドラマには価値がある。その力を引き出す上手い脚本。

政治のドラマ。そして女性に向けられたドラマ。脚本も演出も俳優さん達の演技も、全てが上質。ものすごいものを見た印象。



余談だが、私には法律関連の言葉の勉強になった。Impeachmentはトランプさん時代に聞いていたが、deposition、subpoena、perjury、grand jury、testimony、affidavit、indictmentなどなど…知らない言葉の勉強になった。


このドラマのエグゼクティブ・プロデューサーはライアン・マーフィー他。またエグゼクティブ・プロデューサーとメインのライターに Sarah Burgess。そしてモニカ・ルインスキーさんご本人がプロデューサーとして参加。彼女側のストーリーが描かれている。


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based on the book “A Vast Conspiracy: The Real Story of the Sex Scandal That Nearly Brought Down a President” by Jeffrey Toobin.

Executive producer: Scott Alexander
Executive producer: Larry Karaszewski
Executive producer: Ryan Murphy
Executive producer/writer: Sarah Burgess
Co-producer: Monica Lewinsky


CAST
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Sarah Paulson
as Linda Tripp
Beanie Feldstein as Monica Lewinsky
Annaleigh Ashford as Paula Jones

Edie Falco as Hillary Clinton
Clive Owen as President Bill Clinton

Dan Bakkedahl as Kenneth Starr
Darren Goldstein as Jackie Bennett
Colin Hanks as Mike Emmick