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2021年10月26日火曜日

映画『オー・ルーシー!/Oh Lucy!』(2017): コメディではないのだろう




▲この日本の予告の最後の
「人生の可能性に気付かせてくれる希望の物語…」は嘘ですよ笑


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『Oh Lucy! (2017)/日本・米/カラー
/1h 35min/監督:Atsuko Hirayanagi・平柳敦子』
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HDに去年録画した映画。TV Japanでの放送は去年の11月27日。


結構不快な映画。きつい。苦しくなる。しかし映画としては上手いのかも。しかし少し設定に無理があり過ぎではないか。そもそも話の展開が極端すぎないか。


主人公・節子はやさぐれた独身のOL43歳。

最初、彼女の日々は淡々と過ぎていくように見えた。何も面白いことのない陰鬱な日々。それでも日々は過ぎる。様々なものを諦め、孤独を自覚し、それでも淡々と生きている…そんな女性なのだろうと思って見ていた。

ある日節子は姪の頼みで怪しい英会話学校に通うことになる。若いアメリカ人のジョン先生に「友情のハグ」をされて…妙なスイッチが入ってしまう。(学校を辞めて帰国した)先生を追いかけて、節子は姉とアメリカまで出かけていく。


最初私はこの映画を中年女性のどたばたコメディだとばかり思っていた。だから前半の東京での節子の暗い日常は、節子がアメリカに行ってから明るく弾けて自由をエンジョイする前のプロローグだろうと思った。東京の生活がどんなに暗くても、一旦カリフォルニアに行ってしまえば、コメディ映画らしく明るい空の下での面白いエピソードも沢山出てくるのだろうと思っていた。そうではなかった。

節子は暴走する。10歳ぐらい年下だろうか…若いジョンに一方的に欲情。ろくに会話も出来ないのに本気で好きになったらしい。そして彼女の行動は異常になっていく。


★ネタバレ注意

東京の英会話教室での先生との「ハグ」。それでスイッチが入った。ただそれだけ。たったそれだけで若い外国人に本気で恋をする。そして暴走。白人でちょっと顔が良かったからときめいたのか。それともイケメンのガイコクジンなら誰でもいいのか。あまりに強引。迷惑。相手のことなど全く考えてはいない。ただただ一方的に感情をぶつけて…戸惑うジョンに「I love you」と迫り「You are crazy, I don’t love you.」と怒鳴られ泣く。あたりまえだ。ただ頭がおかしい。

そしてジョンだけでなく、他の人々との関係もずたずたにして暴走した挙句、姉と姪からは絶縁。失意のまま帰国し、出社したらまた災難が降りかかる。


最後に節子を救う役所広司/トムとの場面だけが唯一まとも。彼だけが…もしかしたら節子を救ってくれるのかも。最後はほんの少しだけ可能性を見たような気がして映画は終わる。


リアルなのだろうか。よくわからない。物の多すぎる雑然とした部屋に篭る孤独な中年女性が、ある日イケメンガイコクジンのハグでスイッチを入れられる。彼女は過去にも色々とあったようだ。しかしだからといって、あのような行動が許されるはずもなし。

気になる事が二つある。

①. 彼女が崖っぷちなのは理解できる。43年間いろいろと上手くいかなかったらしい。しかし彼女のトラウマの元…姉と元彼の話も(姪が20歳ぐらいなのだから)…20年も前の話だ。彼女が傷ついたのは23歳ぐらいだろうか。引き摺るには若過ぎる。23歳でだめなら、25歳、27歳、29歳 30歳、35歳、40歳…と20年の間に立ち直るチャンスは何度かあったはずだ。なぜそんなに長い間彼女は立ち直れなかったのか? 

②. そしてガイコクジンのジョンに対する行動は…人に対する尊敬に欠けている。一度ハグされてぽ~っとなって欲情。相手の都合も考えず押しかけていく。しかしあんな強引なやりかたは相手に失礼。ただ強引に暴力的に自分の感情を相手にぶつけて「I love you.」などと迫る。相手に対しての尊敬は微塵も無い。

そもそもなぜそのようなことが出来るのか?

ジョンがガイコクジンだからではないか。ガイコクジンが相手なら少し羽目を外してもいいと思ったか。それなら旅の恥は掻き捨てと同じだ。結局ジョンはガイコクジンというモノでしかないのだろう。それがどれほど相手に対して失礼なことなのか、彼女は気付かない。

あ…そうか。そういえば役所広司/トムさんに対しても同じように迫ってましたね。 トムさんが冷静だから救われた。


もっと相手を、そして自分を大切にしたほうがいい。彼女は人を傷つけ、同時に自分を傷つける。彼女のあのやり方では、人に大切に扱ってもらえないだろう。愛されることも難しいと思う。



少し考えさせられた。

女性の40代は、本来人として魅力的な年代であるはずだ。十分に人生経験を積み、知性を蓄え、落ち着いていて心のゆとりがあって、そして金銭的にも余裕がある大人の女性。人として円熟する中年期だからこそ…大人の男女の出会いだってもっとあってもいい。

ただ日本でそれは可能なのか? メディアやネット上での情報でしかわからないが、よく聞こえてくる日本の男性の声は「女は若ければ若いほどいい」。もし本当に日本の男性の多くがそう思っているのだとしたら大きな問題だろう。

もし日本の男性が「女は若ければ若いほどいい」と実際に思っているのだとしたら、節子のように40歳を過ぎた女性が(誰かといい関係を育む)希望や、(出会いに関する)心のゆとりを持つことは難しいのかもしれない。節子の異常な行動は、もしかしたらそんな社会が彼女を追いつめた結果かもしれない。


見ていて苦しくなった。ストーリーの展開も極端。それなのに話にはぐいぐい引き込まれて95分の長さも短く感じるほどだった。映画としてうまいのだろう。俳優さん達も全員素晴らしい。


一見アイデアはコメディなのに、内容が暗いのでどう受け取ればいいのか戸惑った。ここには真面目過ぎるダメ出し説教感想を書いてしまったが、もっとお気楽にこの映画を見ればいいのだろうか。しかしこの節子さんの暴走はコメディと言うには中途半端で妙にリアル。だから苦しくなる。彼女を見ているとおかしいというよりも悲しくなってしまう。


それにしても「若い女性」ばかりを好む日本の男性は、精神的に成熟した女性と共に楽しい会話をして、いい時間、豊かな時間を共に過ごそうとは思わないのだろうか。女性と尊敬し合い、信頼し合い、助け合ういい友情を育みたいとは思わないのか。


最後の駅のシーンの二人はまるで夫婦のようだ。もし節子さんがこれからトムさんとの交流を始めるのなら、まず穏やかな友人関係から始めればいいと思う。のんびり茶飲み友達でいい。二人が恋愛前提ではない…落ち着いたいい友人同士になれればいい。