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2020年1月30日木曜日

NHK 『おしん』 (1983) -2 ・役者さん達について



昨日このドラマは脚本がすごいと書いた。ドラマ全体の感想を書いて俳優さん達の名演のことを書いていなかった。役者さん達、そして人物達のことを書いておこう。


名作は脚本から。そしてその脚本が名優を生み出す。

まず主演の田中裕子さんは怪物。彼女でなければ『おしん』はこれほどの名作にはならなかったと思う。細くたおやかでどんなにボロを纏っていても常に美しく優雅。本当に美しい人。匂いたつ色気。どんなにやつれていても「おしん」は美しかった。そしておしんは強い。決して負けない。必ず立ち上がる。

田中さんがあまりにも自然に役に馴染んでいて…いや「おしん」が田中裕子さんそのものに見えてしまって、ここに昨日この文を書いたときには彼女のことを書くことさえ忘れていた。このドラマを見た者は田中裕子さんはおしんだと思い込んでしまう。役が俳優さんと同化する。本当にすごいことです。また彼女のおしんが見たくなる。


他の役者さん達も素晴らしい。全員がその役の人物だと思ってしまう。おしんの母の泉ピン子さん。おしんの中年以降の乙羽信子さん(小林綾子さんの回は見ていない)。佐賀の姑・清の高森和子さんは恐ろしいほどの名演だと思う。加賀屋のお加代さんの東てる美さん。養女初っちゃんの田中好子さん。常にふてくされた嫁を演じた田中美佐子さん。その他、渡辺美佐子さんも、赤木春恵さんも、渡辺えりさんも、とにかく全ての女優さん達が素晴らしかった

橋田壽賀子さんの脚本は女性が輝きますね。橋田さんの脚本は、ありとあらゆる様々なタイプの女性達の心が、小さな役に至るまで丁寧に描かれていることにあらためて驚かされる。強さも弱さも、優しさも意地悪さも、正しさも愚かさも、全ての女性達がリアルな生の女性そのもの。例えば佐賀の義理の姉のつねこさん。あの家に嫁いだ彼女の辛い人生を想像し、彼女が最後に見せてくれた親切さに心動かされる。あの後彼女はどうなったのだろうと思わずにはいられない。全ての女性達にそれぞれの人生がある。このドラマは出てくる女性達全員のことを考えてしまう。

鬼姑の清だけは理解できなかった。しかしあの理不尽な意地悪さが、日本の昔の嫁いびりの恐ろしさなのだと想像する。説明不可能な闇。あの人物だけは特殊でしたね。

名作は脚本から。そして名優も優れた脚本から作られる。
この作品は女優さん達が本当にすごいです。


女優さんに比べると俳優さん達の扱いはまた興味深い。実は『おしん』で強い印象を残した男達はダメな人が多い。

おしんの夫・田倉 竜三の並木史朗さん。おしんを佐賀に連れて行く夫。母親に言いなりの夫。飲んだくれる夫。簡単に調子にのる夫。勝手な夫。どちらかといえばダメな男。それなのにこの竜三は不思議に魅力的。「おとこってダメよねぇ」などと言いながら「でもやっぱり好き」…そんな夫。おしんが最後まで竜三が好きなのも理解出来る。それもとてもリアル。

息子の仁もそう。優等生の雄やのぞみは消え、残るのは自分勝手で独りよがりの仁。ダメな息子、それでもかわいい息子。最後まで仁にはハラハラさせられる。それでも仁はやはりおしんの大切な息子。

このドラマはダメな男の方が印象に残る。お父さんの伊東四朗さんもお兄さんも酷かった。むしろ「いい人」の浩太/渡瀬恒彦さんの印象が薄いのが不思議。


『おしん』はやっぱり女性のドラマなのだと思う。健さんのガッツ石松さんは本当に素敵なんですよ。だけどやっぱり結婚するのは並木史朗さん。リアルですよね。おしんと竜三が見つめ合って愛情を確認しあう場面は本当に素晴らしかった。橋田壽賀子さんは本当にすごいと思います。

田中裕子さんのことを書いていたら、また彼女のおしんが見たくなった。