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2018年9月11日火曜日

映画『BlacKkKlansman』(2018):面白い映画・エンタメであり教育的でもあり




 


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BlacKkKlansman2018年)/米/カラー
135分/監督:Spike Lee
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面白かったです。映画としてとても面白かった。この映画は(スパイク・リー監督らしく)内容は真面目な社会派の映画なのですが、まずそれ以前にエンタメとしても大変面白い。アメリカの人種問題の外側にいる…在米10年目の外国人の私にとっては、単なるエンタメとしてもとても楽しめた。

面白かったです。

ここでは「この映画は人種問題を扱って大変すばらしく」とか「いやもっと踏み込んでもっとメッセージ性を強く出した方がよい」などということは言わない。実際よくわからないのですよアメリカの人種問題。だからあまり意見も無い。

私の人種に関する意見を言うならば、

英国でも米国でもヨーロッパでも白人というのは白人以外の人種が嫌いな人が結構いるのね

という個人的な経験から得た知識のみ。しかしたいしたこともないんですよね。個人的にはそれほど辛い思いをしたわけでもない。そういう状況に積極的に挑戦して敵と戦ったわけでもない。失礼な相手と喧嘩をしたり嫌な思いをしたこともないわけではないけれど、どちらかと言えばこちらからは「触らぬ神に祟りなし」。嫌な思いをしそうな場所にはいかない。そういう人々には近づかない。そういう人々とお友達になろうとも思わない。フレンドリーで親切な人々とだけお友達になればよい…もちろん親切でいい人々も沢山いる。…というわけでそういう問題に対して結局私はヘタレのダメダメなんですけど、正直人種問題で悩むのはめんどくさい。「どうせ私は外国人だから」という逃げもある。だからあまり人種問題については語れないのですよワタクシ。
 
しかし白人が白人至上主義で威張っているのなら誰かにガツンとやってもらいたい気がするのは正直なところ。結局白人にとっては、アフリカ系もラテン系もヒスパニック系もアジア系もアラブ系もユダヤ系もインド系もぜーんぶ一緒…カラードの括りになってしまうので、白人以外の方々が色んな形で頑張ってくださるのなら是非応援したい。いつか世の中が変わって(カラードの)私の居心地が少しでも良くなるのなら嬉しい。
 
そんな曖昧な立ち位置から見た映画。よかったですよ。面白かったです。
 
 
アメリカの人種問題を扱った映画と聞けば、外国人にはわかり辛い小難しい映画ではないかと思うかもしれないけれどそんなことはない。そこがリー監督と脚本家の上手いところ。この映画は人種問題を扱っていながら問題を100%理解していなくてもエンタメとして十分楽しめる(もちろん基礎知識はあったほうがいいけれど)。そして押し付けがましくなくじんわりとアメリカの人種差別の歴史と現状を教えてくれる教育的な映画でもある。上手い。


ネタバレ注意
★あらすじ
ストーリーは実話がベース。1979年。コロラド州コロラドスプリングで最初の黒人警察官となったRon  StallworthJohn David Washington)が地元のKKKのメンバー募集の広告を見てそのオフィスに電話。彼(黒人の警察官)がレイシストの白人になりすましてKKKのメンバーになるという話。電話では本人が応対。実際のミーティングでは同僚の白人(ユダヤ人)の警官Flip ZimmermanAdam Driver)にRonとして現場に行ってもらう。電話でのRonの巧みな話術に白人アクセント、そしてKKKメンバーと対峙するFlipの機転とカリスマで作戦は成功。


主人公のRonを演じるジョン・デビッド・ワシントン  さんは、なんとデンゼル・ワシントンさんの息子さんだそうです。この俳優さんがどことなくユーモラスなのがいい。鷹揚に構えてどちらかと言えば無表情なのになんとなくおかしい。主人公としてすぐに好きになる。

そして同僚ユダヤ人のFlipを演じるアダム・ドライバーさん。このアダム・ドライバーさんが最高。ものすごくかっこいい。実際のKKKの現場に行くのはFlipなんですよね。彼が現場で敵と対峙する。そして彼には何度も危機が訪れる…身元がバレそうになる。その度にFlip極右の白人至上主義者になりきって激しい差別言葉を使い、御本人のカリスマ、機敏な行動で毎回危機を脱するのが痛快。この役はとてもいい。

この二人と、数名の同僚の警察官達が協力し合って地元の極悪グループKKKのアジトに潜入捜査を行う。

それと同時にアフリカ系の学生達は集会を開き(彼らも警察から監視対象)、KKKKKKで大親分David Dukeを招いて会合…そこへ地元の警官も警護に送られる。まあ様々な状況が重なっていくわけですが、全体に常に緊張感があって飽きない。中だるみしないので短く感じる。2時間もある長い映画だとは思わなかった。後で知って驚いた。


この映画が作られた背景は、もちろん現在のアメリカの(トランプ大統領の元)政治的右派と左派により分断された現状を反映してのもの。しかし白人至上主義者たちが自由と平等の国=米国にとって大変な問題なのは事実ではあるものの、この映画は必ずしも白人至上主義者達を一方的に糾弾するだけのものではないのも興味深い。

KKKのメンバー達が会合で「White Power, White Power」と叫ぶ場面を映せば、それと同時進行でアフリカ系の学生達が集会で「Black Power, Black Power」と叫ぶ様子も映し出す。RonのガールフレンドPatriceが「Ronが警官なら付き合えないわ」というのも彼女の警官に対する偏見。ユダヤ人のFlipは「今まで自分がユダヤ人だと深く考えたことはなかった。いつも白人としてやっていけた」と言う。

事実アメリカには白人至上主義の長い歴史がある。KKKの始まりは、南北戦争で負けた南部の旧連合国の白人達が、(奴隷制廃止を決定した)北部に対抗して作ったものであるらしい。また1915年に製作されたDW・グリフィス監督による無声映画『國民の創生/Birth of a Nation)』がKKKのプロパガンダに使われたこともこの映画で知った。これもまたアメリカの歴史。この映画の後に気になってこの辺りの歴史を少し調べようと思えたのもよかった。ためになる。


アメリカの人種問題は、私は当事者であるとは言い難く、だからこそまだまだ学ぶことも多いのだが、実際この映画は見る人の立場により見え方、受け取り方もずいぶん変わってくるのではないかとも思う。日々差別的白人と対峙している人にとっては、非情に恐ろしいアメリカの現状を示した映画でもありますね。この映画での1979年の白人至上主義者の言葉と、現在のトランプ大統領の言葉が重なっている脚本はもちろん意図的なもの。映画の最後に、去年米ヴァージニア州シャーロッツビルでの白人至上主義者達の集会の様子が流れましたが、一部のアメリカでは1979年から何も変わっていないのだろうか?…と考えずにはいられない。


エンディングで流れるプリンスの曲が素晴らしい。
ハリー・ベラフォンテさんが出てきた。
とにかくアダム・ドライバーさんがいい彼を見るだけでも価値がある。カリスマがすごい。ちょっと回転数を落としたような低い声もいい。 
RonFlipKKKを信じさせるために、それはそれはもう酷い差別用語を吐き捨てるように喋るわけですが、それが直接彼らの安全を守ることにもなるので酷い言葉なのに少しだけ安心してしまうのは妙な感覚。
KKKのシンボルマークが丸に十の字で島津の家紋と一緒なんですけど、知らなかった。
KKKの大親分David Duke氏を2000年頃のアメリカのコメディ『That '70s Show』の主人公トファー・グレイスさんが演じているのに大笑い。そっくり。