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2016年3月2日水曜日

お猫様H:猫と暮らす/わかり合うということ


 
巷では猫ブームだそうである。できれば生き物を流行りものとして扱って欲しくない。ぬいぐるみのように外見が可愛いからというだけで猫と暮らし始めると驚かされることも多いからだ。

「猫は放っておいてもいいから楽」なんていうのもデマ。個体差もあるのだろうが、うちの猫は四六時中愛情を欲して要求する。思ったより手間がかかる。

無視すれば走り回って暴れる。家具を引っ掻いて傷をつける。放っておくと拗ねる。別の部屋の隅に行ってふてくされる。後で仕返しをされる。十分に遊ばずに人が先に寝てしまえば、深夜に家中を走り回り、階下で椅子を倒し、おもちゃを部屋中に散らかし、意図的に音をたてて暴れて憂さ晴らしをする。猫は野性味に溢れた生き物なのである。



 猫は直ぐには懐かない。同居を始めてもまず人が愛している証拠を示さなければ心を開いてくれない。最初は人を試すように暴れたり噛んだりする。

猫と暮らすのは初めてだったので最初は戸惑った。生き物に噛まれるのは怖い。噛まれると反射的に手を引っ込める。そうすると猫はますます噛む。声を荒げると傷ついたような顔をする。暮らし始めて間もない頃のある日、思い切って「どうぞ」と好きに噛ませるようにしたらむやみに噛むことはなくなった。

猫が噛むのはコミュニケーション。噛むのには理由がある。喋れないから不満や欲求を噛んで表現することもある。それに最初の頃はおそらく噛む事で人の愛情を測っていたのではないかとも思う「この人たちは噛んでも怒らずに愛してくれるだろうか…?」


まず人が猫を信頼しなければ、猫は人を信頼してくれない。人が猫の全てを受け入れて全てを許し、少しずつ猫に心を開いてもらう。心からの愛情をまず人が示して、猫にそれを理解してもらう。そうやって関係を作っていく。

猫のことがわかってくると、猫が私達と全く同じなんだと気付かされる。猫の心は繊細で、幸せも楽しみも喜びも、寂しさや哀しさ、不満や不安、不快感も感じるし、好奇心も好き嫌いも全てある。猫の心は人の心とほぼ同じ。だから一緒に暮らしていて暫くすると次第に猫が何を考えているのかが理解できるようになる。表情も驚くほど豊かだ。

猫には独立した個の意識がある。全て自分で決めたがる。人の思い通りにも慰み者にもならない。そして驚くほど頭がいい。人の心を読み、人を試し、人を操り、人と駆け引きをし、時間をかけて人と友情を築く。決して外見が可愛らしいだけの動くぬいぐるみではない。

こんなに小さな美しい生き物が、これほど誇り高く賢く人と対等に振舞う。それがたまらなく愛しく可愛い。