能登半島地震 ─ 寄付・支援情報

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2017年10月5日木曜日

映画『ルージュの手紙/Sage femme/The Midwife』(2017):春の突風おばちゃん








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Sage femme2017年)/仏/カラー
117分/監督:Martin Provost
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 1ヶ月程前(だったかな)に見た映画。忘れないうちに感想を書いておこう。映画を映画館で見るのは久しぶり。もちろんカトリーヌ・ドヌーヴ様を見に行く

日本では映画祭で公開されたそうだ。一般公開は年末らしい。

主人公はパリ郊外に住む優秀な助産婦クレール。真面目な女性です。学生の息子さんが一人。シングル。

その彼女のもとに父親の昔の愛人ベアトリスから突然の電話。彼女とはもう30年間会っていない…「大切な話があるの」。30年ぶりに会うことになった父の娘と父の愛人…決して穏やかな関係ではない。


主人公クレール(カトリーヌ・フロ)は真面目。苦しいほどに真面目。地味。化粧っ気も無い。週末は小さな菜園で野菜を育てる。実は父親と別れた実の母も真面目で厳しい母親だったらしい。クレールは実の母に似ているのかもしれない。真面目で誠実。しかし堅苦しい。

一方、父の昔の愛人ベアトリス(カトリーヌ・ドヌーヴ)は派手なおばちゃん。お酒とお肉とタバコとギャブルを好む派手なおばちゃん。きっと男も好きなのよね。派手なドレスに濃いメイク。自由。自分勝手。それでも人生を楽しむ達人。陽気で歌を歌うことが好き。

この二人…全く正反対。さてどうなる?


佳作です。いい話。フランスの映画はこういう小作品でもちょっと考えさせられる人生哲学を含むのがいい。

人はどう生きるべきか…? 「…べきか?」なんていうものでもないんだろうなぁ。しかしこの映画のメッセージは明確。

真面目で誠実…しかしちょっと笑顔の少ない地味な中年の女性クレールの心が、型破りで自由な派手派手おばちゃんの突然の登場によって少しずつ少しずつ柔らかく溶けていく話です。


★ネタバレ注意

(追加と訂正:両親の離婚はベアトリスとは関係ないらしいので訂正しました…実はよく覚えていない。それよりもクレールの父親の話があまりにも深刻なので話の辻褄があうのかと疑問に思い始めてしまった。許せるものなの?)


ぶっちゃけ二人の関係を簡単にまとめると…

春の突風のように突然やってきた派手なおばちゃんベアトリスは、クレールの父親の昔の愛人。子供の頃に一時期だけ一緒に暮らしたパパのガールフレンドの綺麗なお姉さん。ところがある日突然、ベアトリスはパパとクレールを捨てて突然出て行ってしまう。パパは傷ついた。それから30年も経った…。

ベアトリスとは、クレールのパパを酷く傷つけ、家庭を引き裂いた女。クレールにとっては許しがたい敵なのよ。

だからそんな女が30年間も全く連絡してこなかったのに突然電話してきて「会いたい。助けてよ」と言ってきても、そんなの関係ねーよって話なんです。そりゃそうだわ。


ところがベアトリスは重い病気にかかっているという。そして身寄りもなく独り者。そこで昔の(仮の)家族…クレールに電話をしてきたというわけです。

クレールは優秀な助産婦さん。日々女性達を救い助ける職業に就いている。そんなクレールも最初は突然現れたベアトリスに憤っていたのだけれど、彼女の病状を知って彼女を放ってはおけない…クレールは優しい女性なんです。

すごーく迷惑な人なのに…昔パパを酷く傷つけた人なのに…家庭を引き裂いた人なのに…30年間も全く連絡してこなかったのに…もう自分には全く関係のない人なのに…、クレールはベアトリスを放っておけない。一緒に時間を過ごすにつれてゆっくりと二人の間の氷が溶け始める。


ベアトリスは一緒にいれば楽しい女性。あれから30年も経った。クレールも大人…49歳。過去の思い出は悲しいものだけれど、今大人になって知るベアトリスは確かに魅力的な女性

恋を謳歌し、歌を歌い、お酒と美味しい食事を楽しみ、ギャンブルを楽しみ…ベアトリスは人生の楽しみ方をよく知っている。クレールの父親もそんなベアトリスの陽気な性格に惹かれたのに違いない。


ベアトリスが現れたのと同じ頃、クレールにも恋人が出来る。借りた畑の隣の男。同世代。もっさりとした地味な外見のトラック・ドライバー。…実は彼も恋とワインと食事を楽しみ歌を歌う…人生の楽しみ方を知る愛情深い素敵な男性だった。

このもっさりとしたボーイフレンドがなかなかいい。美男じゃないんだけれどちょっといい。普通の地味な男…だけどきっとこの人と一緒に過ごす時間は楽しいはずだ。

冷たく堅苦しかったクレールの日常に温かい風が流れ始める。


春の突風のようにやってきたベアトリスおばちゃんは、クレールの冷たい日々に春風を吹き込みいろんなものを吹き飛ばし、ぽかぽかと暖かい春をつれてくる。そしてある日また突然去っていく。

ちょっといい話なんですよね。ベアトリスおばちゃんは春の妖精のようだわ。カトリーヌ・ドヌーヴ様がステキです。

フランスの映画には、人生の美学や哲学を感じることが多い。人は何のために生まれてきたのか? 人生とは楽しむ為にあるのではないか。人生とは、美味しい食べ物とワインと恋と歌と美しいものを楽しむ為にある。人生は短し。いいですねぇ…ちょっといい話だと思うわ。

 

2017年10月2日月曜日

犬さん達と知り合った話



日記的なものはあまり書かないつもりなのだけれど、嬉しかったので記録しておこう。

***

入り口が大通りに面していないので今まで行かなかった近所の公園に初めて出かけてみることにした。高台にあるその場所から夕暮れ時の海を見ようと思った。
 
階段をのぼって公園に入ると、ちょっと向こうに白い犬がいた。こちらを見ている。じーっと見ている。大きな犬だ。白い顔に黒い目がボタンのように2つ。可愛い顔。大型のプードルだろうか。
 
腰の辺りでパーに開いた手を振って小さく「ハロー」と言ってみた。白い犬ははっとしたようにうなずき、ゆっくりとこちらに向って歩き始めた。
 
周りにはいつの間にか3頭ほどの大きな犬達が騒いでいる。わらわらと駆け寄ってきてこちらの腿のあたりを嗅ぎ回り、撫でようと伸ばした手に濡れた鼻を付けてへらへらはぁはぁと動き回る。ずいぶん元気がいい。
 
どの犬も前を歩く旦那Aを先に取り囲む。彼にわらわらと挨拶をした後ですぐにこちらにもやってきてまた同じようへらへらはぁはぁと周りを取り囲む。全身がくるくるのカールに覆われた白い犬もやってきた。他の犬に混じってこちらを嗅ぎ回り尻尾を振ってへらへら笑っている。
 
白い犬の背の高さはこちらの腿くらい。カールに覆われた背中もとても長い。その背中がこちらの腿の前面にぴたりと寄り添って動かなくなった。道をふさぐように脇腹をこちらの腿の前面に寄せてじっとしている。じーっと立っている。あれれ。
 
ほかの犬達はいつのまにかあちらに走っていった。旦那Aもいなくなった。

白い犬はじっと動かない。こちらの両腿にピタリと身体を寄せてじーっとしている。ふわふわのカールに覆われた後頭部が誘っているので、おそるおそる頭を撫でる。掌を顔の横に回し犬の頬から顎に手を伸ばしてさわさわと撫でてみた。犬はやっぱりじっとしている。

そろそろ行こうかな…と一歩後ろへ下がり体の向きを変えようとしたら、白い犬は顔を上げ首と頭をうねうねとくねらせてこちらのお腹に頬を摺り寄せてきた。そして少し身体をずらしてまたこちらの両腿にピタリと脇腹を寄せてくる。またじーっと立っている。

頭を撫で、背中を撫で、両手で頬の毛を持ち上げ、手を伸ばしてふわふわの顎の下を撫でる。なんだか私好かれてるんだろうか。可愛いね。この子は大きいけれどなんだか優しい。

23度と身体の向きを変えても同じように犬さんに前方をブロックされるので、しばらく犬さんを撫でて立ち止まっていたら、飼い主のおじいさんがゆっくりとやってきた「そろそろ帰ろうか…」。「女の子ですか?」と聞くと「うん…シニアなんだけどね。」「可愛いですね…」少し会話をする。白い犬さんはそれでもこちらにピタリとくっついて離れない。うわーなんだかすごく可愛い。

おじいさんがすぐ近くに来たところで犬さんはやっと離れてくれた。これからお家に帰るそうだ。「バイバイ」と犬さんの背中を撫でて別れる。


どうやらこの公園は、この近所に住む人々が夕暮れ時に犬を連れてくる場所になっているらしい。見回すと大中全部で6頭ほどの犬が自由に走り回っている。元々ドッグパークではないのだけれど近隣の愛犬家の間でいつの間にかそういう風に使われるようになったものらしい。4人の飼い主さん達がこちらのベンチに集まって雑談をしている。軽く挨拶をする。

見回すと旦那Aが遠くのベンチに座っていた。2頭の犬が周りを走り回っている。

そちらに向うと2頭の犬が全速力でこちらに走ってきた。白に茶のブチの色素の薄い犬…鼻はピンクで目の色も薄い…赤白のアイリッシュ・セッターだろうか。そしてがっしりとした茶色の犬…ピットブルの雑種だろう。それぞれハッピーで元気がいい。

先ほどの白い犬はおばあちゃんで優しい物腰だったが、この2頭はまだ若い。はちきれんばかりに元気がいい。へらへらはぁはぁへらへらと寄ってきて所構わず嗅ぎ回りまわりをぐるぐると動き回る。背中に触るとがっしりと固い。パーンと弾き返されそうなくらい身体に力が漲る。わらわらわらわらと常に動き回っているのでゆっくりと頭を撫でることもままならぬ。

圧倒的に元気がいい。元気元気元気。ぱたぱたと気ぜわしく尻尾を振り、高速で動き回って所構わず嗅ぎ回り、走り去ってはまた全速力で賭け戻ってくる。すごいな。犬さんは元気がいい。


猫は柔らかい。触ればフワフワの毛。身体もふにゃふにゃと柔らかい。胸の下に手を入れて持ち上げれば溶けるように身体が掌に吸いつく。その柔らかさが何とも言えずかわいくて、思わず鼻や頬を寄せる。ふんわりといい匂いがする。

しかし犬は激しい。元気がいい。びっくりするぐらい元気がいい。身体も固く筋肉が張り詰めている。まともにぶつかったら23メートルは弾き飛ばされそうだ。

それに大きい。遠くから見ればスリムで上品に見える犬も、目の前で見るととても大きい。胴周りは私と同じくらいあるのだろうか。重そうだ。持ち上げるのも難しいのかも。犬さんはがっちり大きい生き物なのね。

わらわらと動き回り、追いかけっこをし、草に顔面ダイブをして頬をすりすりしながら転げまわる。急に立ち止まっておしっこをしたり所構わずウンウンを落としていったりする 😭 おぉ…困ったね…いろいろとびっくりさせられる。

犬さん達はその後も公園中を走り回って好き勝手、自由にわらわら遊んでいた。新しい犬がやってくると、全員で取り囲んでお尻の匂いを嗅いで挨拶。すぐに馴染んで一緒に走り始める。友達になるのも早いらしい。犬は猫ほど気難しくないのだろう。

先ほどの白に茶ぶちの犬とピットブルの雑種犬は、時々こちらに様子を見に来てへらへらはぁはぁ言ってはまた走り去っていく。陽気な生き物だ。

山の陰にお日様が沈んだので家に帰ることにした。立ち上がると犬さんたちはまたわらわらと走り寄ってきた。皆の頭や背中に触ってお別れ。飼い主さんたちに軽く挨拶をして車に乗り込む。

この公園は楽しいかも。また夕暮れ時に見にこよう。夕日と犬さん達を見にこよう。

 
 

2017年10月1日日曜日

お猫様H:NEW マット

 
 
秋になって、階下の窓辺にお日様が射すようになったの。
海亀の姉さんが新しいマットを縫ってくれました。
ここでブラッシングをしてもらうの。
顔マッサージもしてもらって、
  お返しに毛づくろいします。


2017年9月24日日曜日

映画『Brad's Status』(2017):中年のための人生あるある物語





 
 
 
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Brad's Status2017年)/米/カラー
101分/監督:Mike White
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週末に見た映画『Brad's Status』。なんでしょうかね…「ブラッドさんの社会的地位」…というものか。トレイラーを見ると、どうやらベン・スティラーがかっこわるいお父さんを演じている。巷のレビューは高評価・低評価とバラバラにわかれている。Rotten Tomato81点。さてどんなものでしょう?

ストーリーは…西海岸に住む普通の中年おやじブラッド(ベン・スティラー)が、才能溢れる息子を有名大学の面接と他の大学の下見に東海岸の街に連れて行くというもの。ところで主人公ブラッドの学生時代の友人達の中には、桁外れに成功した者が数名いる。そんな友人達に比べるとブラッドは冴えない…どうやらこの主人公はそんな昔の友人達をうらやんで日々悶々としているらしい(笑)。さてブラッドさん47歳はmid life crisis/中年の危機を乗り越えられるのか?


まず最初に書いておきましょう。この映画は
コメディではありません。たぶん。
 
ベン・スティラーが出ているので、日本ではコメディ枠で宣伝されるのではないかと思うけれど、一般的なコメディとして期待すると期待はずれだと思います。決してげらげら笑うための映画ではない。中年にとっては大変リアルなあるある映画だと思う。
 
 
またこの映画は見る人の年齢や経験によって評価が変わると思います。
 
人生の経験を積んだ
年寄りにはコメディとして見ることも可能。
私には実際かなりおかしい映画だった。
そしてちょっと恥ずかしくて苦しくて哀しい。

しかしこれから人生を始める
若い人達には全く面白くない映画だろうと思います。
映画配給会社の宣伝に惑わされるべからず。

この映画は45歳以上向きの「人生について少し考えさせられる映画」です。そういう意味ではとても面白かった。いろいろと考えさせられて、晩ご飯の食卓で会話がはずむはずむ…そういう映画です。


★ネタバレ注意

主人公のブラッドさんは大変真面目な人。不器用だけど真面目。おそらく若い頃から大変な頑張りやさんで、世の中にも自分にも自分の人生にも真摯に向き合ってきた人。

自ら非営利組織の会社を立ち上げ、世の中をよりよく変えようと努力してきた。明るい奥さんは役所づとめ。子供は優秀ないい子。家族3人とも十分に豊かで幸せで、決して文句を言いたくなるような生活はしていないはずなんですよ。


それなのにブラッドさんは文句ばかり言ってる。毎日不満で不安で「俺はこんなものかなのかよ」と悶々としている。

なぜなのか?

なぜなら彼の学生時代の4人の親友が桁外れに成功してしまったからなんですよね。クラスで仲良しだった友人達が、

み~んな桁外れの大富豪/有名人になっちゃった…嗚呼。

とても運が悪いんだわこのおじさん。もし彼の友人達が普通のサラリーマンだったり、役所勤めだったり、親から受け継いだ中小企業の社長レベルだったら、彼もこれほど友人達に嫉妬することもないだろうに…それなのに友人達はみんなとんでもない大富豪!有名人!
 
もちろん彼自身にも根本的な不満の理由はある。
 
…年を取ってきた(47歳)。中年街道真っ只中…今までのようには無理がきかない。これからの自分の人生にももうそれほどののびしろがあるわけでもないだろう。皺も白髪も増えた。身体もいろいろと調子が悪かったりするのかもしれない。元々ルックスも格好もあまり冴えない普通の男…高いスーツにピカピカに磨いたイタリア製の靴を履いて日々仕事をするような生活もしていない。そもそもそんな高額のスーツなんて買う余裕もない。
 
…まあ人間はいろいろと積み重ねて中年になるわけで、47歳にもなれば今まで送ってきた「普通の人」の人生がすっかり生活にも外見にも沁み込んでいて…もう変えたくても変えようが無いわけです。どうやら彼はそういうことにも焦っている。
 
このおやじはおそらく…派手な大富豪の友人達がいなければ、それなりに穏やかな人生が送れていたのかもしれない。…いや元々人と自分を比べる癖があって文句の多い人かもしれないな。いろいろと諦められない頑張りすぎの真面目な男なんですよね。ちっともリラックスしていない。
 
 
たいていの人は、45歳も過ぎれば自分の限界も見えるだろうし、出来なかったこともそれなりに諦めているものだろうし、人と自分を比べることもやめて、精神的にも自分の(それなりの)人生を受け入れて「まあこんなものかな」と思うものだろうに、この主人公のおやじは47歳にもなって、今の自分は学生の頃に描いていた「理想の自分」とは違うと「自分にがっかり」しているわけです。だから息子さんのお友達の21歳の女の子にさえ「おじさん、あなたはまだ世の中が自分のために回ってると思ってるの?」なんて呆れられてしまうわけだ(笑)。なんだか可哀想かも。
 
「俺はもっとこうだったのに」「俺はこうすればよかったのに」「なんで俺だけだめなんだよ」「あいつらと俺のどこが違うんだよ」「なんでなんだよ」「なんでなんで…俺は…」
 
ふぉ~苦しいねぇ(笑)。
 
 
そんなわけで、この映画を若い人(レビューアー)が見ると、ものすごくネガティブな暗い男の話に見えるらしい。とあるアメリカの批評家は「人生に文句ばっかり言ってるつまんない男のつまんない話。時間の無駄。」などと散々に酷評。
 
ところが年寄りの批評家にはそれほどウケが悪いわけでもない。
 
なぜなら…50歳も過ぎればわかる…皆過去のどこかで「自分を人と比べて嫉妬し、上手くいかない自分の状態を悶々とする時期」を誰でも通ってきているからなんですよね。若い時は負けん気があるからそんな自分の苦悩を認めたくない。しかし年寄りになればわかる…クラスのユキちゃんの方が私より綺麗だわとか、ミキちゃんはモテていいわねとか、レストランにいったらキチンのドアの前の席に通されてむっとしたとか、バーで無視されて哀しくなったとか…(笑)そんなの海亀だって数え切れないほどあるぞ。いやそんなのばっかりやぞ。だから年寄りには身に沁みるコメディとしても見られるわけです。自虐のように…ひゃー苦しい…。
 
評価の分かれ目は見る人の経験の違いでしょう。
 
 
年を取ればわかる人生あるある物語。現実よりも誇張し過ぎているのは映画だから。笑わせる意図なんだろうと思う。しかし観客の中には主人公の焦りがリアルすぎて笑えない人もいるかもしれない。
 
それにしても、ブラッド君は苦しいな。年を取ればいろんな事にいちいち怒っていたら身がもたない、心がもたない、何事も「まあいいや」…と笑えるようになった方が人生はずっと楽だということがよくわかる。プライドやこだわりは持ちすぎてもしょうがないのね。こういうのはなんとかしようと努力する必要もないんですよ。
 
だから、そんな(誰にでもある)悶々とする時期を既に通り過ぎた年寄りにとっては、この映画はかなりおかしい。ゲラゲラとは笑えないけれど、くすくすニヤニヤ小さく笑い、時々「うぁあわかる…だよな…」とうなずきながらも自分のことのように恥ずかしくて苦しくなって身もだえしてしまう。微笑ましかったりちょっと可哀想になったりもする。ブラッド君わかるわかりますよ…だけどもうちょっとリラックスした方がいいと思うぞ…そんなふうに親しい友人を見るような思いで、バタバタと苦しむ中年おやじを見つめる。そんな映画。
 
中年男性の話なので中年女性にとってはまぁ結局はひとごとで、ブラッド君が微笑ましかったり面白かったりもするわけですが、中年男性にとってはもっと身に沁みて居心地の悪い話らしいです。旦那Aが隣で身もだえして苦しんでいた(笑)。
 
 
ブラッドお父さんと息子のトロイ君の関係もいい。
 
成長しきっていない子供みたいなお父さんと、妙に落ち着いていて大人な息子さんトロイ君の対比が面白い。トロイ君は冷静な大人なのね。どこか大物。うだうだ世の中に文句言って焦ってドタバタしているダメおやじを冷静に見つめる息子さん。優秀な息子に嫉妬するお父さん、ちょっと恥ずかしいお父さん…というのも、きっとリアルなあるある話なんだろうと思います。でもお父さんは息子のために必死でがんばっているんですよね。ああいう親子は現実に沢山いそうだ。
 
 
映画の最後が(アメリカ式の)みんなでハッピーエンドじゃないのもいい。思ったよりさらっと終わる。映画の最後で主人公が心を入れ替えてすっきり幸せな男になるわけではないのがいい。
 
ブラッドさんはたぶん映画が終わる時もそれほど以前とは変わってないんですよね。彼はきっとこれからも悶々としてやっぱり文句を言って日々を過ごしていくんだろうと思う。しかし最後にほんの少しだけ光が見えるような描写があって、それが…彼がこれからいい方向に向っていく可能性をぼんやりと示しているのかもなぁと思った。そんな終わり方は悪くない。映画の尺内で無理に「改善」した人物を見せられるよりずっと自然でいい。


いい映画です。期待せずに見たら思った以上におかしくてリアルでいい話だった。

 
主演のベン・スティラーさんは、一見コメディにも見える苦しいダメおやじを好演。大変残念なめんどくさい男なのに、彼を嫌いになるよりも温かく見ていられるのは俳優さんの愛嬌なのだろうと思います。
 
注目は息子さんトロイ君を演じたオースティン/Austin Abrams21歳だそうです。大変落ち着いていて、お父さんよりもずっと大人なティーンの男の子が心に残ります。素晴らしい。彼はきっといい俳優さんになると思います。楽しみです。