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2019年1月21日月曜日

映画『ビール・ストリートの恋人たち/If Beale Street Could Talk』(2018):心に迫る親密な映像・しかし構成に難有り






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If Beale Street Could Talk2018年)/米/カラー
119分/監督:Barry Jenkins
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2017年度アカデミー賞受賞の『Moonlight』の監督バリー・ジェンキンスさんの映画。もちろん彼の映画だから見に行った。


★あらすじ
 
1970年代のニュヨーク・ハーレム。19歳の女の子Tishが、幼馴染のアーティストAlonzo 'Fonny' Hunt  と恋に落ちる。二人は結婚して家族になる事を夢見るが、ある日Fonnyが身に覚えの無い容疑で逮捕される。


★バリー・ジェンキンス/Barry Jenkins監督:繊細に人の表情をとらえる芸術家

ジェンキンス監督は映像の芸術家。いや「映像」という言葉だけを使うのは間違ってますね。彼の映画は人の心を親密にとらえる。親密でリアルで生々しい…彼のカメラは人物達の顔にべったりと近づいていって、その人物達の心を生々しく写し撮る。

台詞に頼らず俳優さん達の上手い演技と繊細な表情を映像でとらえて話を進めていく方法は独特だと思います。言葉が少ないからこそ人物達の心が見えてくる。『Moonlightもそうだった。このIf Beale Street Could Talkも同じ。ジェンキンスさんの映画は人の心に迫る。

人物達の心を親密に生々しく映し出す…こんなに人の心をとらえるのが上手い監督はあまりいないのではないか。

親密で人の心に迫る映像を撮る監督さんがアフリカ系の方なのもまたいい。今まで圧倒的に数の多かったハリウッドの白人の監督さん達は(自分と同じ)白人の人々の心をとらえることは出来ても、アフリカ系の人々の心を同じように撮れていたのだろうか?

しかしおそらくジェンキンス監督の親密な映像スタイルは人種の違いを超えますね。このお方はアジア系を撮っても、白人を撮っても、同じように生々しい親密な映像を撮るのだろうと思う。

Moonlight』の時にも思ったけれど、芸術枠のいい映画を撮る監督さんだと思います。これからも彼の映画には期待したい。


★上手い俳優さん達
 
俳優さん達もまた素晴らしい。『Moonlight』の時もそうでしたが、監督はどこからこんなに上手い俳優さん達を見つけてくるのだろう、どこにこんな美しい人達がいたのだろうと思う。この監督さんに見つけられた俳優さん達はラッキーです。全員が名優に見えてくる。

俳優さん達が名優に見えるのは、上手い監督と上手い俳優さん達による相乗効果でしょう。監督がまず実際に上手い俳優さん達を見つけてきて、その上で彼らが上手い役者に見えるように撮る。だから俳優さん達が全員素晴らしい。

監督が人物達を親密にとらえるから観客は人物達の心に沿う。人物達の繊細な表情を見て、観客は人物達と親密な関係になる。観客は人物達を観察するのではなく、彼らのすぐ隣に座って彼らの顔を覗き込みながら共に時を過ごす。彼らの心に親密に触れるから、観客は彼らを友人や家族のように親しく思う。人物達を好きになる。

FonnyStephan James  さんは憂いのある瞳の美しい人。TishKiKi Layneさんの初々しさと可愛らしさ。お母さんのRegina Kingさんにお父さんのColman Domingoさんの温かさ。それぞれが本当にいい俳優さん達。…お母さんのRegina Kingさん、お父さんのColman Domingoさんは、今までテレビドラマによく出ていらした方々だそう。こういう方々がいい映画に出て、世間に知られるようになるのはいい事です。若い主役のStephan James  さんKiKi Layneさんは、これから大きなスターになっていくでしょう。


★しかしこの映画は散らかり過ぎ・構成が問題・監督は頑張り過ぎたのではないか?

(以下ネタバレ注意)

…というわけで、監督の映像スタイルと上手い俳優さん達を褒めたあとで、ここでどうしても本音を書かなければならない。この映画はどう見ても

とっ散らかってます。

なんだか色々と詰め込みすぎてとてもわかりづらい映画。

映像は芸術。俳優の演技も上手い。効果音も演出も最高。それなのに、どうも映画として心に残らない。なんだか話がブレている。こんなに素晴らしい部品を集めたのに、映画全体として、どうにもまとまりに欠ける。

この映画がFonnyTishの二人の愛の話なのか、温かいTishの家族の愛の話なのか、それとも不当に扱われる70年代・米国のアフリカ系の人々の苦悩の話なのか…どれも同レベルのエネルギーで語られているために、どれが主軸なのか途中でわからなくなった。

構成にまとまりが無いこと、それにいろんな場面に無駄に時間をとりすぎて話の軸がブレて見えるのは大きな問題。主軸はFonnyTishの話であるはずなのにサイドストーリーにエネルギーと時間をかけすぎ。おまけにそれぞれの場面の時系列が飛ぶので、頭の中で話を構築し直さなければならないのも困る。結果、話が右に左に動いているように感じた。映画を見ていて「この話はどこに向っているのだろう」と何度も思った。

ジェンキンス監督の『Moonlight』がなぜ素晴らしかったのか?…あの映画は話がシンプルで軸がしっかりとしていてわかりやすかったのがよかったのではないか。話がシンプルだったからこそ、監督の芸術的な映像が映えた。

色々と上手い監督さんだからこそ、この映画は色々とてんこ盛りでお腹一杯。その割に中身は薄かった印象。全体に盛り上がりにも欠ける。この話でこの監督さんなら、もっとよくまとまったいい映画が撮れたのではないかと思う。なんだかもったいないと思った。


★酔う

カメラを手で持って撮影しているのだろうと思います。ずーっと船酔いをしたようで気持ち悪くなった。映像美と人物達に迫る親密な映像は、手で持ったカメラによる撮影によるところが多いのだろうけれど、酔うのは辛い。
 
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というわけで、部品は素晴らしい。俳優さん達も、人物達の台詞も映像も大変素晴らしい。しかし全体になんだか話を詰め込みすぎて散らかったまとまりのない印象の映画。無駄に長い。もう少し整理整頓して無駄な場面をカットし、30分ぐらい短く構成し直したら傑作になると思います。しかし素晴らしい俳優さん達を知ることができたのはよかったです。